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「いいわねぇ、二人とも。でも、相羽さん。もう一度、よく考えてみることをお勧めするわ」  何たって、怜士さんは本当に、ややこしい性格なんだから!  笑顔のままでそう言ってのける、彩華だ。  そして、その笑顔の目を、すうっと細くして、今度は丈士の方を向いた。 「丈士さんは、まだ独りなのかしら?」 「え、あ。それは、はい。ですが、お父様のお勧めで、森永伯爵令嬢と婚約しております!」  父の勧めで、と聞いて、彩華の顔から笑みが消えた。 「およしなさい。お父様のお勧め、なんて。あの人は本当に、見る目が無いんだから」 「ですが、お姉様。櫻子(さくらこ)さんは、素敵な方なんです」  丈士の返事に、彩華は目を円くした。  それは、怜士も同様だった。  これまでの丈士なら委縮して、濁った言葉をもごもごと言うところだ。  はっきりとした返答に、姉も兄も驚いていた。  そこへ料理が運ばれてきて、丈士への関心はひとまず保留となった。 「あら。前菜に、フォワグラとレーズンバターのサンドだなんて!」 「お姉様の好物は、ちゃんと覚えていますよ」  嬉しいわ、と彩華はご機嫌だ。  弦楽アンサンブルの生演奏が始まり、姉弟は食前酒で乾杯した。

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