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「それで。お姉様は、これからどうなさるおつもりなんです? お住まいは? お父様のお屋敷に、厄介になられるんですか?」  突然放たれた言葉に、怜士と倫は緊張した。 「丈士。そういう事は、少し酔いを醒ましてから」 「あ、明日でも、いいんじゃないですか?」  ところが、彩華はこの問いかけに真正面から答えてきた。 「怜士さんのお屋敷に、しばらく滞在させてもらうわ」  滞在させてもらいたい、ではなく、滞在させてもらう。  お伺いを立てないまま、結論を出している。  にっこりとした笑顔を、彩華は怜士に向けた。 「いいでしょ?」 「お姉様がそう望まれるのならば、どうぞ」  彩華は、したたかな人間だった。  酔いを利用し、さらりと言いにくいお願いを通してしまった。 「もちろん、永久に、と言うわけではないのよ。わたくしのお屋敷が、完成するまでよ?」 「お姉様。ご自分の住まいを、建てられるのですか?」 「ええ。すでに着工しているの。怜士さんに、あまり迷惑はかけられないもの」 (……やはり彩華お姉様は、相変わらずの策士でいらっしゃる)  怜士は、心の中でこめかみに手を当てていた。  北白川の長女が住まう屋敷となると、一般の注文住宅のように、1年やそこらで建つはずもない。  知り合いの富豪など、壁紙にまで凝りだしたために、5年経った今でもまだ入居できずにいる始末だ。 (早くて3年、長くて7年、といったところか)  そう、怜士が心構えを持った時、さらに丈士が追い打ちをかけてきた。

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