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「すでに着工に入っている、ですって? では、お姉様は、正式に離婚なさる前から、着々とその準備をなさっていたのですか!」  たまたま、弦楽四重奏の曲が終わったので、ダイニングはやたらと静まりかえってしまった。  丈士の頓狂な大声が響き渡り、実に気まずい雰囲気だ。  倫は、丈士に駆け寄りたくなった。  この無作法な酔っぱらいを、どうにか黙らせたかった。 「丈士さま。ここには、光希くんもいます! そういう大人の話は、別室で!」  倫にたしなめられ、丈士は青くなった。  一気に、酔いが醒めた心地だ。 「いや、あの。私は、ただ……」  困り果てた男に助け舟を出したのは、何とその光希だった。 「構いません、お話しを続けてください。僕は、もう5歳です」  毅然とした5歳児に、倫は舌を巻いた。 「こ、光希くん。でも……」 「お母様とお父様との間には、僕が生まれる前から愛は無かったのです」  淡々と語る光希の頭を、彩華は優しく撫でた。 「ごめんなさいね、光希。お話しはもう、ここまでにしましょう」  そのまま席を立つ母子に、怜士は声を掛けた。 「お姉様。どうぞ気兼ねなく、この屋敷にお住いください」 「ありがとう、怜士さん。感謝するわ」  ディナーは自然と終わり、残った者もダイニングを後にした。 「丈士。今夜は、泊っていきなさい。ずいぶんと、酔っているようだし」 「すみません、お兄様。そうさせていただきます……」  丈士は、自分の失言をひどく気に病んでいる様子だった。  使用人に案内されて、ゲストルームの方向へと消えていった。 「倫も。ここで休むといい」 「僕は、酔ってはいませんよ?」 「私が、酔っているんだ。介抱してくれないかな?」 「そういうことなら、喜んで」  倫は、そのまま怜士の部屋へと共に歩いた。  一度だけ、振り向いて。 (丈士さま、大丈夫かな。それに、光希くんも)  波乱含みの食事会は、こうして幕を下ろした。

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