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「お姉様が、私の心配を。お兄様が、そんな優しい言葉を……」
「丈士さま」
「嬉しい。とても、嬉しいよ」
穏やかな笑みを、温かく胸を浸してくる思いを、丈士は噛みしめた。
そして顔を上げた時のまなざしは、これまで倫が見たことの無い、晴れ渡ったものだった。
「ありがとう、倫。何か、吹っ切れた。君のおかげだ」
「えっ?」
「これまで私は、いつも他人の目を気にしていた。自分の保身だけを考えていた」
頭角を現してきた怜士を妬み、特別に侯爵として抜擢された兄の地位を奪おうとしたり。
彩華が伯爵家に嫁ぐと、自分も相応の人間と結婚しようと、格下の縁談相手を見下したり。
父親の秘書として、傍に置かれたことも、丈士にとってはマイナスだった。
委縮し、焦り、何とか功績を挙げようと。
父に認められようと、必死に空回りしていた。
「だから、相羽男爵の収賄疑惑をことさら騒ぎ立て、爵位剥奪にまで追い込んだんだ」
「そうだったんですね」
倫は、丈士の打ち明ける話しに、静かに耳を傾けていた。
「謝っても済むことではないが。倫、本当に悪かった。この通り、許してくれ」
今からでも、相羽家の再興に協力する!
丈士に力強く手を取られ、倫は大きくうなずいた。
「はい。僕も、がんばります!」
丈士さんは、きっと今、生まれ変わったんだ!
それは、倫にとっても嬉しい、喜ばしいことだった。
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