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「し、失礼! 別に、その。セクシャルなことを、訊ねているのではないんだ!」
「そ、そうですか! そうですよね!?」
「だが……」
「だが?」
「出会ったその日のうちに、お兄様は倫を求め、君もそれに応じた」
「はい」
倫は、少し構えた。
(ふしだらだ、って言われちゃうかも)
しかし、丈士は否定も非難もしなかった。
ただ、うらやましいのだ、と言った。
「出会ってすぐに惹かれ合って、互いを信頼し。恋をし、愛し合う。素敵だよ」
うんうん、とゆっくり首を縦に振り、うらやましいな、と繰り返した。
「君たちに倣って、私も櫻子さんのことを素直に愛したい、と考えるようになったんだ」
「櫻子さま。丈士さまの、婚約者ですね?」
倫は、晩餐の時の、丈士と彩華の会話を思い出した。
『丈士さんは、まだ独りなのかしら?』
『え、あ。それは、はい。ですが、お父様のお勧めで、森永伯爵令嬢と婚約しております!』
『およしなさい。お父様のお勧め、なんて。あの人は本当に、見る目が無いんだから』
『ですが、お姉様。櫻子(さくらこ)さんは、素敵な方なんです』
姉に非難されても、腐ることなく自分の思いを主張した、丈士。
まだ、手も握ったことが無いんだけどね、と照れ笑いするその顔は、確かに恋をしている優しい表情だった。
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