112 / 179
4
「僕のお母様とお父様は、家同士のためになるから結婚したんだ、って。お母様は初めっから、お父様を愛してはいなかったんだ、って」
そう語る光希の目は、暗い。
そして、父もまた、母とは別に数名の情人を囲っていたという。
「お父様が家族を大切にしないから、離婚することに決めた、とお母様は僕に話したんだ」
「そうだったのか……」
互いに歩み寄る努力をしないまま、夫婦関係は冷めきって破局を迎えた。
光希に、罪はないのに。
彼の心は全く考慮されないままに、大人の事情だけで決められた離婚だったのだ。
「光希くん。辛かったね……」
かける言葉が見当たらなく、倫はただシンプルに、彼を労わった。
すると、光希は一粒だけ、涙をこぼした。
すぐに頬を伝った涙をぬぐい、彼は上を向いた。
「ごめんなさい。あ、そうだ。倫さんの、お母様とお父様は、どんな人?」
無理に明るく振舞い、話題を逸らそうとする光希が、痛ましい。
だが倫も、そんな彼に併せるように、軽やかな声を出した。
「お父さんもお母さんも、働き者だったよ」
そして倫自身も、小さい頃から両親の仕事をよく手伝っていたことを話した。
「すごいなぁ。僕くらいの頃から、お仕事を手伝っていたなんて」
「簡単な作業だけどね。おまけのお菓子を入れる袋を、作ったり」
「何だか、楽しそう!」
「今の仕事も、楽しいよ。ハーブガーデンに、行ってみる?」
「うん! 行きたい!」
話すうちに、二人はすっかり打ち解け合った。
笑顔で手を繋いで、ガーデンへと向かった。
ともだちにシェアしよう!

