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 その頃、怜士と彩華は、書斎で込み入った話を進めていた。 「では。お姉様は、財政的には何ら問題がないのですね?」 「ええ。光希の養育費も、父親から毎月振り込まれるの」  親権や相続の件に関しても、有能な弁護士が間に入っているので、まず揉めることはない。  そう、彩華は言い切った。 「ところで。わたくしのことより、怜士さんは? 相羽さんと、結婚するのよね?」 「そのつもりですが」 「じゃあ、結論から言うわ。怜士さん、あなた結婚を機に、政界から退きなさい」 「えっ」 「侯爵の爵位を返上して、隠居することを勧めます」 「お姉様?」  怜士は、一瞬だけ混乱した。  いったい姉は、なぜ突然にこんなことを言い出すのか。  しかし、元々が冷静で頭の回転が速い男だ。  すぐに、姉の真意に思い当たった。 「私の後任には、お姉様が就く。そして、ゆくゆくは光希くんが継ぐ。そういうお考えですか」 「さすが、怜士さん。話が早いわ」  さて。  どうしようか。 (倫。実に厄介なことになって来たよ)  瞼を伏せ、怜士は白磁のカップを手にした。  残念ながら、そこに満たされている飲み物は、倫が淹れてくれたハーブティーでは、ない。  やけに酸味の尖った、ぬるいコーヒーが、怜士の喉を通っていった。

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