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第二十三章 朗らかに

『侯爵の爵位を返上して、隠居することを勧めます』  怜士の後任には、自分が就く。そして、ゆくゆくは息子の光希に継がせる。  この彩華の提案を、怜士はコーヒーを飲むふりをして、深く思案した。  決して、動転はしない。  落ち着き、熟慮し、方向を決めた。  そしてカップを震わせもせず、静かにソーサーへ戻した後、彩華へ返答した。 「私も、結論から申し上げます。いいでしょう。そのお考えに、賛同します」  ただ……。 「ただお姉様は、私利私欲だけで動く人間ではない。私への利もあると考えての、お申し出でしょう?」  その、私の利とやらを教えていただきたい、と怜士は彩華に問うた。  政界を引退し、侯爵でもなくなった自分に、一体何が残ると言うのだ。  怜士自身では、思いつかない。  彩華に聞くしか、なかった。  だが、姉は逆に不思議そうな言葉を寄こしてきた。 「自分で、解らないの?」  しばしの沈黙が、彩華と怜士の間に流れた。

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