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「やあ、待ってたよ!」 「和生さん!」  すでに支度を整えていた和生を、倫は光希に紹介した。 「こちらは、和生さん。ハーブガーデンの園長さんで、僕の上司だよ」 「上司、だなんて。くすぐったいなぁ」  和生は笑顔のまま、光希にきちんと礼をした。 「和生といいます。よろしく、光希さま」 「北白川 光希です。こちらこそ、よろしくお願いします」  挨拶を終え、光希はわくわくと椅子に掛けた。  その椅子は、ちゃんと背の低い人のために作られたもので、彼は細やかな和生の気配りに喜んだ。 (きっと、素敵なお茶会になるんだ!)  傍に控えるマナー講師の目が、気になるところだが。  そして、こうも思った。 (ああ。お母様とも、ご一緒したかったな)  このところ、多忙を極める母・彩華だ。  離婚を決意し、その手続きや実行、さらには元夫の屋敷を出るための準備。  これらに阻まれ、光希は母と共にゆっくりお茶をいただく時間など、もう一年ほど味わっていない。  そんな光希の寂しさを、倫も傍で感じ取っていた。 (怜士さまが、彩華さまを連れて来てくれれば、最高なのに)  きゅっ、と倫が目をつむったところに、その怜士の声が聞こえてきた。 「遅くなって、すまない!」 「怜士さま!?」  瞼を開いて見ると、怜士がこちらに向かって来る。  そのすぐ後には、彩華の姿もあった。 「お母様!」 「光希。良い子にしているかしら?」  光希くん、と倫は5歳児の顔を見た。  その笑顔は、輝いている。 「倫さん。お母様が来てくれたよ!」 「うん、やったね! 良かったね、嬉しいね!」  二人で手を取り合い、ピョンピョン跳ねた。  怜士と彩華が彼らの元へとやって来るまで、跳ね続けた。

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