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旅に出たい。
そんな怜士の望みは、倫の心に当たり前のように染み入った。
初めて出会った時の、物憂げな怜士の印象。
それは、ありとあらゆる彼を取り巻くしがらみに、がんじがらめにされた、悲しい男の姿だった。
そして、初夜の翌日のやり取り。
もし今回のことで倫に子どもができたら、父親になると言ってくれた怜士だったが……。
『で、でも。怜士さまと僕とでは、身分が違いすぎませんか!?』
『それには、及ばない。身分など、私はもう真っ平なんだ』
身分すら、怜士にとっては足枷だったのだ。
彼の思いを汲み取り、倫は大きくうなずいた。
「僕は、賛成です。怜士さんが、旅人になることに」
「いいのか? 政界を引退し、侯爵でもなくなった私に、倫はついて来てくれるのか?」
「喜んで、お供します!」
「ありがとう。ありがとう、倫……!」
怜士は、倫をそっと抱き寄せて、その胸に抱いた。
小さな、倫の体。
(だが彼は、大きな心で私を受け入れてくれたんだ!)
倫を抱く怜士の胸は、喜びでいっぱいだった。
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