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 怜士は、運転手や警護の者に聞こえないように、小声で倫の耳元にささやいた。 「しかし。君が、別世界からやって来た人間だったとは。この世界の御両親は、そのままのお姿なのか?」 「それが、僕にも解らなくて。だから、緊張しているんです……」  正直なところ、怜士は倫の告白を未だ鵜呑みにはできずにいた。 (もしかすると、身の上の急変に心が追い付かず、脳に異常をきたしているのかもしれない)  苦しみや悲しさから心を守るために、妄想が生み出されているのかも。  そんな風に、怜士は考えてもいた。  だが、倫が自分にとって、かけがえのない存在であることには違いない。 (御両親への挨拶を終えたら、受診を勧めてみよう)  気が付くと、怜士の手を握る倫の力が、強くなっている。 「倫、大丈夫だ。相羽男爵は、とても好感の持てる方だから」 「ホントですか?」 「ああ。彼が市長に就任した時や、男爵の称号を授与した時に、何度か会ったことがある」  真面目だけれど、笑顔が良くて。  どんな人間にも、誠意をもって対応する。  怜士の語る人物像は、倫を落ち着かせていった。  それは、彼の父親の人柄そのものだったのだ。  やがて二人を乗せた高級車は、一軒の邸宅の前に停まった。

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