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 謎の青年の正体は、幸いなことにすぐ解った。  座敷へ上がり、怜士と倫は、まず仏壇に線香をあげて手を合わせた。  その時に、倫は気づいたのだ。 (あ! お兄さんのお位牌が、無い!)  両親の位牌の間にあった、小さな位牌。  それは、倫が生まれる前に亡くなった、兄のものだった。  悲しいことに、母の胎内で消えてしまった、小さな命。  その兄が、こうしてちゃんと生きている。  倫にとっては、夢のような嬉しさだ。  おずおずと、声を掛けてみる。 「あの。お、お兄さん」 「何だい? 倫」  爽やかな笑顔の、素敵なお兄さん。  再び、涙があふれて来る。 「おいおい、倫。相変わらずの、泣き虫だなぁ」 「北白川さんのところでも、泣いているの?」  父が笑い、母が心配する。 (ヤバい。このままじゃ、ホントに号泣しちゃう……)  倫が下を向きかけた時、怜士が助け舟を出してきた。 「こうして、倫くんと二人でお伺いしたお話を、始めてもいいでしょうか?」  場は引き締まり、倫の涙も自然と引いた。 「北白川さん。それは、お電話でうかがった通りの内容ですか?」 「そうです。私と倫くんとの結婚を、お許し願いたいのです」  兄が淹れた緑茶を、父は黙って口にした。  和やかだった空気が、張り詰めてきた。

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