133 / 179
5
謎の青年の正体は、幸いなことにすぐ解った。
座敷へ上がり、怜士と倫は、まず仏壇に線香をあげて手を合わせた。
その時に、倫は気づいたのだ。
(あ! お兄さんのお位牌が、無い!)
両親の位牌の間にあった、小さな位牌。
それは、倫が生まれる前に亡くなった、兄のものだった。
悲しいことに、母の胎内で消えてしまった、小さな命。
その兄が、こうしてちゃんと生きている。
倫にとっては、夢のような嬉しさだ。
おずおずと、声を掛けてみる。
「あの。お、お兄さん」
「何だい? 倫」
爽やかな笑顔の、素敵なお兄さん。
再び、涙があふれて来る。
「おいおい、倫。相変わらずの、泣き虫だなぁ」
「北白川さんのところでも、泣いているの?」
父が笑い、母が心配する。
(ヤバい。このままじゃ、ホントに号泣しちゃう……)
倫が下を向きかけた時、怜士が助け舟を出してきた。
「こうして、倫くんと二人でお伺いしたお話を、始めてもいいでしょうか?」
場は引き締まり、倫の涙も自然と引いた。
「北白川さん。それは、お電話でうかがった通りの内容ですか?」
「そうです。私と倫くんとの結婚を、お許し願いたいのです」
兄が淹れた緑茶を、父は黙って口にした。
和やかだった空気が、張り詰めてきた。
ともだちにシェアしよう!

