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第二十七章 涙の倫

 まずは、と怜士は手にしていた湯呑を、茶托に戻し改まった。 「この度の、相羽様における収賄疑惑、および爵位剥奪について、このとおり深くお詫びします」  座卓に額が届くほど、深く頭を下げる怜士に、倫の父は首を横に振った。 (え!? お父さん、怜士さんを許してくれないの!?)  慌てて身を乗り出した倫を手で制し、彼はにっこりと笑った。 「どうぞ、頭を上げてください。あれはもう、過ぎた話です」 「しかし」 「まぁ、長男に譲った店のために、銀行から資金を借りたことが、罪に問われるとは思いませんでしたが」  迂闊でした、と語る父の笑顔に、悪意は見られない。  倫は胸をなでおろしたが、怜士はまだ気が済まなかったようだ。  重ねて詫び、父にとって有益な話を提案してきた。 「わたくしは、相羽さんの無罪を公表し、改めて爵位を授与したいと考えております」 「それは、なかなか魅力的なお申し出ですな。ですが、まぁ遠慮しときましょう」  倫の父は笑顔のまま、怜士の提案を断った。

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