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「そうか。倫くんと怜士さまが、婚約かぁ」  本当に、二人が出会って恋に落ちるまで、あっという間だった。 「運命、だったんだな。きっと」  和生は、倫と初めて会った日のことを思い出していた。 (こうして、私がいつものようにハーブの手入れをしていると。虎太郎の、大きな声が聞こえて来て) 『おい、和生。新入りを頼む』 『ん? これはこれは。やけに可愛らしい子を、連れてきたね』 『多分、没落貴族のお坊ちゃんだ。名字を持ってやがる』 「倫くんがお坊ちゃんだから、虎太郎は気を遣って、私のところへ連れて来たんだ」  虎太郎が仕切る現場は、荒れ地を整える過酷な環境だ。  華奢な倫では、とても務まらなかっただろう。 「虎太郎らしいな。ああ見えて、優しい」  そこへ、その虎太郎の大声が響いた。 「おぉい! コソコソはしてないが、丈士さまがいらしてるぞぉ!」 「だから! 毎回腕を掴むのは、よせ!」  おやおや、と和生は立ち上がり、軽く手を振った。 「丈士さま、ごきげんよう。怜士さまなら、そろそろテラスでお茶ですよ」 「うん、ありがとう!」  虎太郎から逃げ出すように、小走りで駆けていく丈士を見ながら、二人は笑った。 「倫くん、怜士さまと婚約しちゃったよ」 「ああ。俺のところにも、挨拶に来てくれた」 「……ね、虎太郎」 「何だ」 「気づいてるかなぁ、私の気持ちに」 「は? 誰が?」  虎太郎の間抜けた返事に、和生は苦笑した。 (倫くん。どうやら私の恋は、まだ時間がかかりそうだよ)  君と、違って。  それでも虎太郎と和生の間には、同じ春風が吹いていた。

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