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第二十九章 春らんまん

 怜士と倫が婚約してから、二週間ほど経っていた。  倫はいったん実家へと帰り、怜士とは住まいを別にしている。 「でも。こうも頻繁に訪ねて見えるのでは、別居とは呼べないかもね」 「彩華お姉様。私が頼んで、通ってもらっているのですよ」  10時のティータイムは、変わらず笑い声が絶えない。  怜士と倫。それに、彩華と光希。  丈士は、婚約者の櫻子を伴うようになっていた。 「怜士お兄様と倫くんは、仲がいいでしょう? 櫻子さん」 「はい。わたくしたちも、そうありたいですね」  照れる丈士は、まだ熱いお茶を口にして、舌を火傷してしまった。  その様子もまた、笑顔を誘う。  全てが、うまく回っている。  そんな印象を、この場の全員が感じていた。 「それにしても。諸々の問題を、あのお父様がよくすんなりと承諾してくださいました」  丈士の言葉に、ことさら大きくうなずいたのは、彩華だ。 「気味が悪いほど、聞きわけが良かったわ。なぜかしら?」  肩をすくめて見せる姉に、怜士は微笑みかけた。 「きっと、私たち姉弟が、初めて団結して見せたからでしょう」 「そうかもね。いえ、そうね」  勝気な彩華に、寡黙な怜士。  姑息でいながら小心者の丈士。 「よく考えたら、とんでもない子どもたちだわ。お父様も、お母様を亡くされてから、大変だったでしょうね」 「でも。最終的には、全員の幸せを望んでくださいました」  怜士は、少し瞼を伏せて父を思った。

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