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『僕は、本の世界に迷い込んだ異邦人なんです』
不思議な、倫の告白だった。
「ヒトが、本の世界に迷い込む。初めて遭遇する事例だ」
しかし、倫を疑ったり、馬鹿にしたりすることは、無い。
「愛する人を疑うなど、できないからな」
私が知らないだけで、意外とそういった人間が、身近に多くいるのかもしれないし。
ただ、怜士が恐れることが、一つある。
「倫が、元の世界へと戻ってしまう可能性は、ある……」
私は、それが怖い。
すやすやと、穏やかに眠る倫の傍に横たわり、怜士は彼の香りを強く吸った。
「そうなったら、私はもう生きてはいけないだろうな……」
ああ、いっそ。
いっそ、このまま。
「この幸せな時を、このまま止めてしまいたい」
怜士は、倫の手を取った。
眠りの帷(とばり)が、彼の意識に下りて来る。
目覚めた時も、倫と一緒でいられますように。
そう祈りながら、怜士は寝入った。
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