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第三十一章 やすらぎの先に

 倫は、寝ぼけながらも自分が怜士に言ったことを、ちゃんと覚えていた。  コテージを出発し、張り切って山頂を目指す。  そして途中、幾度も足を止めては、野草を愛でた。 「白くて可愛い花、発見!」 「小さな花を、よく見つけたな」  それは、ヒメウズという名の草だ、と怜士がすぐに教えてくれる。 「あっちから、何かいい匂いがします」 「行ってみよう」  ジャスミンのような甘い香りに誘われて行くと、そこにはアイボリーホワイトの花をたくさん咲かせた木が立っていた。  小さな花が集まった姿は、まるで可愛いアジサイのようだ。 「怜士さん、これは?」 「トベラ、だ。海辺によく見る、低木だよ」 「ここは山の中なのに。トベラがなぜ、生えているんでしょう?」 「この山は低いし、海がすぐ近くにある。だから、トベラも見られるのではないかな」  よどみなく、知識を披露する怜士に、倫は驚いた。  彼の意外な一面に、驚いていた。 「怜士さん、詳しいんですね!」 「植物は、好きなんだ」  そう。  私は、植物が好きだった。 (こんなことまで、忘れていたとは)  そして、それを思い出させてくれたのは、この朗らかな少年だ。  ゆっくりと、自分を取り戻しながら、怜士は倫と一緒に山頂まで歩いた。

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