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 楽しい時間は、斜面を登る苦しささえも消してくれる。  気付いた時には山頂だった、というくらい、怜士と倫は夢中で登山をしていた。  頂上の風は少し強く、すぐに汗が引く。  爽やかな空気を胸いっぱいに吸いこみ、二人は達成感を味わった。 「ああ! 気持ちいい!」 「何度登っても、いいものだな」  低山だが、見晴らしはとても良い。  眼下に広がる、緑の木々。  遠くの平野に見える、市街地。  そして、先ほど怜士が言った通り、近くに海がきらめいていた。 「僕、山にこんなに海が迫ってるなんて、知りませんでした」 「行きは、北側から入ったからな。よし、帰りは別の方角を走ろう」  海を見ながら、ドライブだ。  そんな怜士の明るい言葉に、倫は喜んだ。  そして、彼と景色を交互に見ながら、口を手でふさいで、ふふっと笑った。 「今、変なこと考えちゃいました」 「何だろう? 聞きたいな」 「言えば、笑います」 「笑わないから」  恥ずかしいのか、倫は目を逸らしたまま、独り言のように話し始めた。

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