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「そうだな。ガードレールで、何とか車体が落ちずに済むかもしれない」
発想をプラスに転換した怜士は、急ぎ倫へ指示した。
「倫。シートをしっかり掴んで、衝撃に備えてくれ」
「はい!」
自動車は、そのままのスピードで、ついにカーブに差し掛かった。
「来るぞ、倫!」
「はい!」
会話をした、と思った時には、激しい衝撃が二人を襲った。
わずか時速10Kmの衝突でも、体重の3倍強の衝撃を受ける自動車事故だ。
体に大きな負担が掛かり、倫は話すどころか呼吸すら難しいショックを味わった。
「う、あ……」
「倫、生きてるか……?」
痛い。
苦しい。
だけど、聞こえる。
怜士さんの声が、聞こえる……!
倫は、力を振り絞って返事をした。
「怜士さんは、大丈夫、です、か……?」
「何とか、な。まさか、エアバッグまで展開しないとは……」
痛む体を動かし、怜士は倫の方を見た。
彼はダッシュボードにぶつけてしまったのか、額から血を滲ませている。
「しかし。助かった、のか……?」
いや、違う。
怜士が少し身じろいだだけで、車体は軋み、ぐらりと揺れた。
ガードレールを突き破り、ほとんど崖側に落ち掛けているのだ。
時折、海から吹き上げる強い風に揺れる、二人を乗せた自動車。
転落は、時間の問題かと思われた。
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