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 絶体絶命の、状況。  だが、倫はこちらを向いて微笑んでいる。  その笑顔が、私に力を与えてくれる。  怜士は、痛む腕を上げて、スマートウォッチを操作した。 「お姉様、落ち着いて聞いてください」 『どうしたの、突然。何かあったの?』 「ハッキングに遭い、事故を起こしました」 『何ですって!?』  大丈夫なの? 倫さんは? 怪我は?  動転する姉の質問にはあえて答えず、怜士は必要なことだけを短く伝えた。 「私の事故死を目論んだ者の、仕業でしょう。おそらくは、隣国」 『今、あなたの位置情報を掴んだわ。待ってて、すぐに救助要請を!』 「チャンスです。ハッカーを突き止め、これをネタに、揺さぶりをかけてください」 『こんな時に、何言ってるの!』 「巧くいけば、良い取引の材料になります」 『怜士さん……』  お姉様ならできます、と怜士は息を吐くように笑った。  その声に、彩華は唇を結んだ。  

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