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 死を目前にしながら、怜士も倫も穏やかな気持ちだった。  微笑みを、絶やさなかった。 「愛してるよ、倫」 「愛してます、怜士さん」 「もし、君が助かったら。どうか、私の分まで、生きて欲しい」 「怜士さん?」 「決して、絶望せず。君、らしく、前を、向いて、進んで……。約束……」 「はい。約束します……!」  倫の視界が、涙でにじんだ。  怜士の言葉が、切れ切れになっていく。  もう、会話をすることも、辛いに違いない。  ついには、瞼を閉じてしまった怜士。  そんな彼に、倫は必死で身を寄せた。  ぴったりと寄り添い、一生懸命に顔を近づけた。  倫の唇が怜士に触れると、苦しげだった彼の表情が、安らぎに変わった。  最後のキス。  そして二人を乗せた自動車は、崖下の海へと落ちていった。

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