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幕間
『本屋大賞を最年少受賞!天才若手作家の秋津怺さんを、ツギクルの我々がなんと直接取材・独占インタビュー!』
ぼうっとテレビ画面を見つめている。放送から一週間、何度も繰り返し見ているニュースバラエティの録画。
覚えたての煙草を吸って吐く。灰を落とす。後ろでもぞもぞ裸の女が文句を言っている。
「るいく〜ん……まぶし……」
「うっせ、寝てろよ」
軽くその剥き出しの尻を叩いてやると、女はきゃんと鳴いた。正直名前も思い出せない。
画面の向こうのシノの顔だけ見ていた。
『すみません、あんまり……お喋りは、得意ではなくって』
はにかんで笑っているシノ。高校の時よりだいぶ髪を短くして前髪を上げ、素朴だが味わい深い、教科書の文豪のような顔立ちが存分にスタジオの照明の下光っている。
『僕は……文章を書いてる時だけ、本当のことを話している、そういった気持ちになる性分、でして、ええ……』
アナウンサー、質問下手くそ。シノ、すげぇ頑張って喋ってんだぞ。相槌早い、被せんなよ。シノの間合いがあんだろ、察しろよ。あーでも、なんか、シノ、かっけぇ。
『僕は正直、なにも、信じてない。信念とか尊敬してる作家の名前とかもあんまり……ちゃんとしたものがないんです。お恥ずかしながら。ただ、僕は……誰かに、僕の書いたものを読んでもらえるのが、本当に、うれしくて……それだけって言えば、いいんですかねぇ……ううん……』
かっけぇな。あいつ。
ぐっと手を伸ばして、テーブルの端に放り出されたハードカバーの本を掴む。タイトルは「懺悔の街」、千五百円の本の舞台はシノと自分の故郷の町だった。都会とも田舎とも言えず、進学校のようでそうでは無い、そんな高校が一つあるだけのつまらない町。何度も読んだ。文章を読むのは苦手だから、指で辿りながら読むこともあった。
なんてうつくしい言葉を使うんだろう。
どうしてこんなに文章が書けるんだ。どうしてこんなに言葉が出てくるんだ。シノは昔からそうだった。喋るのが下手なのは急かされるからで、ゆっくり話せば面白い話をたくさんしてくれた。シノと居ると自分が恥ずかしくなることも、何度もあった。それ以上にシノといた高校三年間は、無敵だった。
俺は今歌詞のひとつも書けないのに。
真っ白のノートをボールペンの先でこつこつ叩く。いらいらする。バンドメンバーで詞を書いていた奴が薬物で捕まった。こっちに迷惑がかかるようなことは無かったが、詞を俺が書かなければいけなくなったことが一番の大迷惑だ。
音源を聴いても何も出てこない。アイツみたいにイッてる恋愛の歌詞は書けない。なんかもっとかっこいいのがいい。エモくて、頭良さそうで、そんで、そんで。シノなら、何を書く。
秋津怺の本を手に取った。
俺はそれに、ボールペンで印を書き込み始めた。ノートと、秋津怺の本を、行き来した。
売れたかった。シノみたいに。
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