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第54話 我慢できない

 唇が触れた瞬間から全身の熱が上がるのを感じた。エリペールは最初から余裕がなくて、いきなり貪るように求めてくる。    バルテルシーの件で、とてもじゃないが性的な行為をする空気になれず、我慢していたのかもしれない。  今にして思えば、僕が少しでも不安にならないよう気遣ってくれていた。  だからもう何一つ我慢して欲しくない。思いのまま求めて欲しい。  激しく舌を絡め取り、息苦しくて涙が滲む。それでも良かった。これでエリペールの心が満たされるのであれば、もっと責めてくれて構わない。 「マリユス、君の匂いが私を眩ませる。甘いフェロモンがアルファの本能を引き摺り出すように誘ってくるのだ。もっとゆっくりマリユスを愉しみたいのに、止めることが出来ない」  絡ませた唾液がべっとりとついた口許を腕で拭いながら、興奮を抑えきれずに肩を大きく上下させている。 「今にもマリユスに喰らい付いていきそうで、自分が怖い。大切にしたいのに、本能が暴れだしそうだ」  第二次性とは厄介で、自分の意思とは全く違うところで働いている。  それは自我をも上回り、体の全てを支配される。本能が上位に立つと、無理矢理にでも引き剥がされない限り抗えないのだ。 「構いません。僕も、エリペール様に触って欲しくて体の疼きが増していく一方なんです。全身をエリペール様の精で埋め尽くして欲しくて、こうしてフェロモンで誘っているのです。我慢せず、僕の中に全て注いでください」  以前のエリペールなら「煽るな」などと言って必死に自我を保とうとしただろうが、今は何も言わなかった。  エリペールの中心で怒張しているそれは、既にはち切れんばかりに太く固く存在を示している。  血管が浮かび、先端からは先走りの透明な液がきらりと光る。  僕はそこから目が離せなかった。腹の奥で子宮がきゅっと締まり、この男根が這入った時の感触を思い出してしまう。  孕みたいと願っているのだ。本能が、このアルファの子を孕みたいと主張してくる。  孔からはオメガの液が流れ出し、蜜口がヒクヒクと期待に戦慄く。 「……欲しい」  無意識で呟いていた。  前戯など要らない。とにかく孔をエリペールの男根で貫いて欲しいと思ってしまった。 「挿れてください。お願いです。ここが、寂しくて仕方ないのです」  足先でエリペールの男根を撫で回す。  エリペールはくっと顔を顰め、僕の膝に手を置いた。 「そんなおねだりを、いつの間に覚えたのだ? マリユス」 「ぁあ、だって、体の中で子宮が疼くのです。エリペール様に可愛がって欲しくて、我慢できません」 「まだ解してないから挿れたくても這入らない。久しぶりだから、丁寧にしなければ」  エリペールが孔に指を伸ばした。  僕はそれを阻止して体を起こし、エリペールの足の間に顔を埋める。  目の前にみる男根は孔の中で感じるよりも太くて大きい。自分のものとは比べ物にならない代物だった。  ごくりと唾を飲み込むと、小さな舌で先走りの液を舐める。 「マリユス!! 君がそんなことをする必要はない」 「嫌です。だって、だって、エリペール様が僕に教えたんじゃないですか。この体に快楽を教えたのは、エリペール様の形と熱を刻み込んだのは、エリペール様自身ですよ。早くこれで僕の体を埋め尽くしてください」  オメガの本能に、正常な判断が出来ていないと思われているかもしれない。  しかしそれで良い。これがマリユスとしての気持ちだなんて知られるのは恥ずかしい。  でも今だけは、全てをオメガのせいにしてでも満たされたい。  亀頭を咥え、じゅうっと吸う。  エリペールの全てを含むことはとても叶わないが、顎が外れそうなほど圧迫される口中をエリペールの男根で埋めつくした。 「ふ……ん……ん……」  先走りの液が分泌を増していく。もっと欲しくて舌で先端を刺激すると、エリペールが呻った。 「マリユス……離せ……」  いやいやと涙目で訴える。両手で根元から扱き、喉奥まで男根を突っ込んだ。  口の中で長大なそれが更に太くなったかと思うと、次の瞬間、熱い液体が勢い付けて放たれた。 「んっ……!! ふ、んぐ……」  エリペールが吐瀉する直前に僕の頭を鷲掴みにして更に男根を押し込み、白濁が直接喉に流し込む。  僕はごきゅっごきゅっと音を立てて飲み込んでいった。  エリペールは腰を痙攣させながら、二度三度に渡り吐精した。 「マリユス!! 何故そんな無茶をするのだ!!」  男根を抜いた途端に呆れながら叱られた。  放心状態になった僕は口を開けたまま固まってしまい、エリペールの精液を口から垂らしている。  ようやく酸素を取り込み、大きく呼吸をしながら、それでも自分でエリペールを吐精させられた余韻に浸る。  無我夢中で、自分の事にまで気が回らなかったが、口淫しながら自分も果てていた。エリペールは指で僕の屹立から白濁を掬い、「私のものを感じながら果てたのか」愉悦の笑みを向けながら、額に口付けた。

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