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第63話 エリペールの一年間②
♦♦♦
「マリユスをどこへ連れて行った!?」
侍女のリリアンを探す。
昨夜、互いにバース性を発症し、マリユスは自分の全てを私に捧げてくれた。
何度も何度も精を放ち、可愛らしい声で啼き、時に目が眩むようなセリフで私を煽る。
腕の中で快楽に身を捩らせるマリユスは天使のように純潔で、それでいて艶やかで……。
部屋に戻り次第、また直ぐにでも体を重ねたい。
あのオメガのフェロモンに翻弄されたい。期待を胸に自室へと急いだ。
なのに……。
そこには誰もいなかった。
ベッドメイキングは済まされ、マリユスのものは一切置かれていない。
何より|匂いがない《・・・・・》。それはマリユスがこの部屋にはいない証拠である。
まさか、さっきの父との話を聞いてしまったか……いや、そうではないだろう。
マリユスは発情期が始まったばかりだ。移動などできるはずもない。
なのに、浴室を覗いても衣装部屋にもどこにもいない。
「リリアン!! リリアンを呼べ!!」
専用の侍女まで来ないとはどういうことだ……。
ほんの数時間の間に、何故マリユスが姿を眩ませたのか……。マリユスが私との行為の罪悪感から逃げ出したとでも言うのか。
だから首を噛ませなかったのか。
苛立ちと焦りで血が逆流を起こしそうだ。
それはマリユスにではない。彼を一人にしてしまった自分にだ。
主人に抱かれ、愛を囁かれ、自我を失っている間は良かった。フォローをしなければいけないのは、マリユスが正気に戻った後だと、今になって気付くなんて……。
とにかく、マリユスが頼るとするならリリアンしかいない。
部屋を飛び出し二人の名前を呼ぶ。
冷静でないのは自覚していた。それでも一刻も早くマリユスを探し出さなければ……。
従者の中にもアルファはいる。
発情期中のオメガに出くわせば正気を保っていられないはずだ。
「私が、一番に見つけなければならない」
守ると誓ったのに。誰よりもそばで、愛を注ぐと決めたのに。
「マリユス、マリユス、どこにいる」
気持ち悪いほど従者が誰一人と姿を見せない。
「リリアン、どこだ!?」
———返事がない。
動悸がする。
鼓動が早鐘を打ち、冷や汗が流れ出した。なぜかこの屋敷の中にマリユスの気配を感じない。
「どういうことだ。何故突然、フェロモンも何も感じなくなるのだ。いや、感じないのではない……遠くなっている……?」
外に出たとでもいうのか。
微かに感じる匂いを辿り、急いで階段を降りた。
「エリペール」
大広間に出たところで母のブランディーヌに呼び止められ、反射的に立ち止まる。
「お母様、マリユスが突然姿を消したのです。見かけませんでしか。彼は昨日バース性を発症して……」
そこまで自分で説明をしてハッとした。
ブランディーヌの顔を凝視する。
彼女もまた、嗜めるように私を正視していた。
「……マリユスを何処に連れて行ったのです、お母様」
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