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第65話 エリペールの一年間④
若さだけでどうにか耐えていたのだと思う。
殆ど眠れず英気を失っていく日々。
仕事に没頭することでマリユスへの想いを誤魔化してきた。
体力面と精神面、同時に崩れ始めているのにそれを無視した。
しかし一度躓いてしまえば、そこからの転落は止められず、ベッドに背中が張り付いているかのように動けなくなった。
「エリペール様、エリペール様、聞こえますか? お体、拭きますね」
「……あぁ……頼む……」
リリアンではない侍女に、抑揚のない声で返事をする。
侍女は無言で作業を進めた。何かを話しかけたところで、今の私では会話は成り立たない。
倒れたすぐの頃は気を使って体調を伺ったりしていたが、体力の衰えは日に日に目に見えて悪化する一方だ。
一目で昨日よりも悪いと判断できる。体調の確認など、必要もなかった。
この頃では視界が灰色になっていて、今が昼か夜か……くらいの判断しかできなくなっていた。
明るい灰色か、それとも暗闇か。私にはその二種類の感覚しか残されていない。
目を覚ますことも眠ることも叶わない、靄のかかった世界に閉じ込められたような気分だった。
マリユスのいた世界とはまるで違っている。
二人で過ごした時間が、とても遠い昔の出来事のように色付いて見える。
上手く笑えなかったマリユスから少しずつ感情が芽生え、いつの間にかとても表情豊かな人へと変貌を遂げていた。
困ったように私を覗き込む上目遣いと、照れて耳朶を弄りながら視線を流す仕草が特に好きだった。
本能のまま快楽を受け入れたマリユスは、初めて見せる表情ばかりであった。
頬を赤らめ潤んだ眸をこちらに向ける。普段、私欲を出さないマリユスが「もっと、もっと」と強請る唇は、私からのキスを欲望のままに受け入れた。
全て、過去の思い出になってしまった。
徐々に思考が働かなくなる。マリユスと離れ離れになってから、どのくらい経ったのだろうか。
そろそろ満月一周分ほどになっているかもしれない。
早く迎えに行かなければならないのに。
早くマリユスを迎え入れる準備を進めなければならないのに。
こんなにも動かない体では成す術もない。
これほど自分を情けなく思ったのは生まれて初めてであった。
———守っているつもりだったが、本当は守られていたのだ。
遠くに感じていたマリユスの気配が消えた。
私の全機能が完全に停止し、全ての色を失った。
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