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第3夜 胸を焦がす熱
昌也の顔が近づいてくる。
重なった唇は、冷房なんて意味ないくらい熱い。
くっつけては離し、離してはくっつけて。
触れ合っているけれど、物足りない。
「ん、ふ……ね、ねぇ、ちゃんとキス、しよ」
「んー? してるじゃん」
リップ音を立ててキスをする昌也は、少しだけ意地悪な顔をしている。
これは俺が焦れるのをわかってやっているやつ。
俺が我慢できなくなるのを待っている。
そうやって、いつも俺が白旗を挙げるのを待っているんだ。
主導権は握られっぱなし。
悔しいけれど、でも、それでもいい。
もどかしいキスに我慢できなくなった俺は、昌也の背中に腕を回し、ぐっと引き寄せた。
「ふ、う……ん……」
唇の隙間から舌を入れ、昌也の舌先をざらりと舐めて誘い出す。
そして、視界がぼやけるほどの近距離で昌也の目を見て訴えた。
――早く深いキス、しよう。
昌也の細く長い鼻息が頬に当たる。
そう思ったときには、昌也の舌は俺の咥内に潜り込んでいた。
俺は昌也の舌に自分のを絡めて擦り合わせる。
温かくてぬるりとした感覚が気持ちいい。
そう、これがしたかったんだ。
欲望に身を任せて舌を絡め、咥内を弄り合い、時々唇で舌を吸う。
息継ぎを何度も繰り返し、吐息を分け合う。
「雄大ってキス、好きだよな」
「うん、好き……」
だって、昌也とキスすると幸せな気分になる。
これ以上ないくらい体が熱くなって、そのまま溶け合いたくなる。
だから、好き。
「ねえ、もっとキスしよ」
「いいよ」
ねだる俺を見て、昌也はふわりと笑った。
また蕩けるキスをして、幸せな気分に浸る。
そうしていると、腰がむずっと疼いてきた。
もっと深いところで繋がりたい。
俺は昌也が着ているシャツの裾の隙間から手を入れた。
昌也の肌は冷房のおかげでサラッと乾いていた。
でも、俺の手に吸い付くように馴染む。
縦に伸びた脇腹の筋肉をなぞって、昌也の肌の感覚に浸る。
ずっと触っていたい心地よさに、自然と鼻息が漏れた。
「ん、ふ……」
「っちょ、くすぐったい」
「ごめん。じゃあ、こっち」
びくつく昌也の抗議に応えて、俺は手をするりと動かして昌也の首に回した。
脇は弱いくせに、首や耳は平気らしい。
面白いよね。
俺が昌也の首筋をくすぐり回っていると、昌也は反撃とばかりにキスしながら俺の弱いところを指先でなぞっていく。
肩から胸。
そして、ぷっくり主張している乳首。
いやらしく乳輪の周りを円を描くようにして触り、中心に近づいては離れてを繰り返す。
じんっと熱を持った胸の粒は、昌也に触れられるのを待っている。
「ッ……ねえ、今日、なんか……」
「なに?」
「ねちっこくない……?」
だって、いつもだったらとっくの昔に触ってくれている。
乳首も、短パンの中でびちょびちょになっている昂りも、触ってほしくてひくついている後孔も。
なのに、なんで今日はずっと焦らしてくるんだ?
「だって、ゆっくりしたいから」
「ゆっくりって……ゆっくりすぎない?」
「そんなことない」
「ひ、あぁ……!」
否定する口で、乳首を啄まれた。
ビリッと背中に快感が走り、腰が跳ねる。
さっきの焦らしが嘘のように、断続的に乳首を口に含まれて舌で舐られる。
空いた手ではもう片方の乳首をコリコリされて、俺は思わず昌也の髪をくしゃりと握り締めた。
「あ、あ、ダメッ……両方は……!」
「なんで? 触ってほしかったんだろ?」
「で、でも……あぁッ……下、も⁉︎」
刺激を求めて浮いた俺の腰。
昌也はそれを利用して、俺の足からするりと短パンとボクサーパンツを抜き取った。
外気に晒されて濡れて震える俺の昂りを、昌也はぬるりと扱く。
好きな人の熱。
久しぶりの、俺より大きな手。
「もう、イッ……」
「だぁめ」
すぐにイきそうだったのに、昌也は残酷にも扱く手をぱっと離した。
「な、なんで……」
「久しぶりなんだから、一緒にイきたい。雄大は?」
こてんと首を傾げられ、触れられずにイきそうだった。
我慢できた俺を誰か褒めて。
昌也の言うことはわかる。
俺だってそうだ。
でも、それならさ。
「俺もだよ。でも、それならもう少し手加減して」
「それとこれとは別の話」
「は、あ? あぁ……ッ昌也ぁ!」
手加減してって言っているのに昌也は乳首にしゃぶりつく。
そして、ローションで濡れた手で後孔をゆるゆると撫で、つぷりと中に指を入れてきた。
「しーッ。父さんたちが起きるだろ」
「誰がッ、そうさせたと……思っ、あ、んぅ……そこ……!」
「雄大のここ。すぐ見つけた俺、凄くない?」
「ばッ、かぁ……! て、てかげ、んぅ……!」
昌也は鼻歌でも歌いそうな上機嫌で俺の後孔を解し、前立腺を指で押し込んでいく。
どうしても出てしまう声は、昌也がキスして食べてしまった。
全速力で走ったときのように上がる息。
それを全部飲み込まれて、後孔を弄られて。
白い快感が目の前でパチパチと弾けていく。
「これくらい、かな。挿れるよ」
「もうッ……早く、しろよ……」
「りょーかい」
行儀悪く足で、俺に覆い被さっている昌也の腰を蹴って八つ当たりする。
昌也は宥めるように俺の足を撫で、素早く全部の服を脱ぐと、ペリッとスキンのパッケージを開けた。
鼓動に合わせてピクッと跳ねている昌也の剛直は、多分平均より大きい。
そこに、くるくると透明な膜が被せられていく。
俺はごくりと生唾を飲んだ。
「早く」
昌也に散々解された俺の後孔は、開かれたくてキュッと収縮を繰り返している。
そこに、昌也の剛直がひたと当てられた。
「雄大、大好きだよ」
ぐちゅりと卑猥な水音を立てて、熱くて固い昌也が入ってくる。
柔らかく熱い隘路を貫く剛直は大きく、圧迫感があって少し苦しいくらいだ。
でも、文字通り体も心も満たされていく。
やっと繋がれた熱に、俺の目尻からほろりと涙が溢れる。
会えない間、胸にぽっかりと穴が空いているようだった。
自分の半分を失った。
そんな気がしてならなかったんだ。
カレンダーを見ては過ぎた日に小さなバツを書き込み、お盆まで何日かを飽きもせず数える。
胸を焦がすような寂しさは、込み上げてくる愛しさと同居していた。
「俺も、大好き。愛してる」
昌也の剛直が奥の壁にぶつかった。
俺のお尻と昌也の腰がぴたりと触れ合う。
キスをねだって首を伸ばせば、今度は焦らされなかった。
唇を食んで、吸い付いて。
唾液を混ぜ合わせ、首筋に唾液が伝っても唇を重ね続ける。
キスの刺激で後孔が締まった。
堪らず呻いた昌也がゆるゆると腰を揺らし始める。
理性は焼き切れるほど限界なはずなのに、それでも優しくしようとする昌也が好きだ。
でも、今は優しくしなくていい。
「まさ、や、ぁ……もっと……」
「もっと、激しく?」
「う、ん……全部、ちょうだい」
昌也の激情を、熱を、残らずすべて。
それから、もっともっと俺を求めて、奪って。
ひとつになろう?
足で昌也の腰を引き寄せ、腰を揺らす。
太い幹で擦られた前立腺が、俺の昂りを熱くする。
昌也の剛直が奥の壁を穿つと、体中に快感の波が広がっていく。
気持ちいい。
ずっとこのまま、昌也と繋がっていたい。
昌也も、俺と同じくらい気持ちよくなってほしい。
いやらしく昌也の首筋を舐ると、俺の中の熱がグッと大きく膨らんだ。
「ああッもう! 久しぶりだから優しくしようとしてたのに!」
「あッ……だっ、てぇ……ぁああ、そこ……!」
久しぶりだから、もっと深く、もっと激しく。
体の境界線がなくなるまで溶け合いたいんだ。
煽った自覚はもちろんある。
でも、俺は昌也の激情を甘く見積もっていた。
途中で休憩しながら、 俺も昌也は何度も白濁を吐き出し、何度もキスをして、何度も愛を囁いた。
そうして、まさか空が明るくなるころまで繋がっているなんてね。
でも、体がきつくたっていい。
昌也と一緒にいられるのもあと数日。
限られた時間だからこそ、昌也と抱き合っていたいんだ。
それまでに、昌也と何度もキスをしよう。
あと一年が寂しくないように。
これがあと五年続いても耐えられるように。
遠く離れていても、心は繋がっていると感じられるように。
昌也がこの家に帰ってくるそのときまで、俺は胸を焦がしながら待つんだろう。
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