「九条さん！　九条さん！」 　太賀は九条に必死にしがみ付きながら九条の名を何度も呼んだ。ともに膝立ちになる体勢になりながら、太賀は必死に九条にしがみつく。 九条にしがみついていると、自分が快斗に犯されそうになった恐怖と、九条が助けに来てくれた歓喜と、九条から香る煽情的匂いが、一度に自分に押し寄せてきて、太賀の思考をぐちゃぐちゃにする。もう、何が何だか分からないというのに、九条の出現によって、自分の発情がよりクリアに、より本能的に躍動しようとするのだけははっきりと分かってしまう。 （ああ、どうしよう……辛いよ） 　太賀は自分の呼吸がどんどん浅くなるのを感じながら、堪らず九条をぎゅっと抱きしめた。 九条は太賀に抱きつかれながら体を強張らせている。その体は洋服越しでも分かるくらい熱く、小刻みに震えている。 「……九条さん、どうしてここに？」 　太賀はそれが気になって問いかけた。でも、そう問いかけた後、そんなことは本当にどうでもいいと思い直した。今こうやって九条が目の前にいるという奇跡を、太賀は素直に甘受する。 「すみません。そんなことどうでもいいですよね……ただ俺、九条さんが助けに来てくれて、凄く、凄く嬉しいんです！……ああ、でも、俺がそんなこと言える筋合いじゃないです。ごめんなさい！　だって俺、九条さんに酷いことをしたから……」 　大賀はしどろもどろでそう言うと、ずっと黙ったままの九条を上目づかいで見つめた。その時九条と目が合った。その瞬間、太賀はハッと息を呑んだ。 　九条の目は赤く血走っていた。その目は、太賀にでも分かるくらいの強い欲情を滲ませている。今まで何度も太賀の発情に対峙してくれた時の九条の目とは明らかに違う。太賀はそんな九条の目を、息を詰めながら見つめた。 「太賀……」 　九条は太賀の名をとても低いくぐもった声で呼んだ。まるで強い欲望を必死に自分の喉元で抑えているみたいに感じる。そんな太賀の思いを他所に、九条は片手で太賀の後頭部を支えるようにして手を回すと、もう片方の手で九条の背中をそっとなぞった。 「あっ……」 　太賀はびくりと体を震わせながら声を出した。自分は背中をなぞられるのが弱いのかもしれない。九条は太賀の着ているティーシャツを乱暴にまくり上げて脱がすと、今度は素肌に直に、太賀の弱い部分をわざと責めるように何度もイヤらしく指を這わせる。その緩急をつけた九条の指の動きに、太賀の中心がびんっと張りつめたかと思うと、そこから精がトロトロと溢れ出る。 「はあ、ああ、く、九条さん……ちょ、待って……」 　そう言って快感に口を開けた瞬間、太賀の後頭部に添えられた九条の手にぐっと力が入ると、九条の舌がぬるりと太賀の口腔内に滑り込んで来る。その舌は火のように熱く、太賀の舌を執拗に捉え離そうとしない。小刻みに動く九条の舌は、太賀に舌の裏側までも隅なく刺激しないと気が済まないような強い執着を感じさせる。 「ふんっ、んっ、はあ、はあ……く、九条さん、い、息でき、な、いっ」 　太賀は、呼吸する隙も与えないくらいの九条の情熱的なキスに、危うく酸欠になりそうになる。 　九条はキスをしながら太賀の精で濡れた中心を掴むと、上下に激しく扱いた。その刺激に太賀は、それでもキスをやめようとしない九条から無理やり口を離すと、背中を仰け反らせながら大きく喘いだ。でも、その体勢によって突き出されてしまった胸の突起に、九条はいきなり唇を這わせる。 「ああっ、やっ、それっ」 　舌を小刻みに動かしながら、甘噛みをしたり、わざとチュっと音を立てて吸い上げたりをしながら、九条は太賀の胸の突起を嬲るように責め続ける。それと同時にイヤらしい水音を立てながらクチュクチュと性器を扱かれ、太賀はその二つの愉悦に我を忘れて喘ぎまくる。 「ああ、ああっ、く、九条さん！　ま、またっ、イ、イクっ」 　九条はそんな太賀をさっきよりも血走った目で見つめると、太賀を床に乱暴に押し倒した。両手首を掴まれ床に強く押さえつけられるが、その力は異常に強く、太賀は今まで何度も九条にされてきた強引な行為に中で、今が一番強い痛みを覚える。 　九条は苦しそうに顔を歪ませると、大きく肩で息をしながら太賀を見下ろしている。九条は額を僅かに汗で濡らし、吐く息は太賀に届くくらい熱い。 　太賀は九条の明らかに今までとは違う状態に、もしやと思った。そう思った瞬間、太賀の全細胞が、今か今かとその可能性に狂喜乱舞し始める。 「く、九条さん……もしかして」 　太賀はそう恐る恐る問いかけた。九条はさっきから一言も言葉を発していない。ただ無言で、自分の中で爆発しようとする激しい欲望と必死に葛藤しているように見える。 「太賀……俺はお前を……」 　九条は言葉を詰まらせながら、苦しそうにそう言った。 「何ですか？　九条さん！」 　太賀はその先の言葉をせがむように九条を強く見上げた。 「……壊してしまうかもしれない……」 （ああ！　構わない！　あなたになら何をされても！！） 　太賀は九条の言葉に胸が粉々に吹き飛んでしまうほど歓喜した。やっと手に入れることができる、自分が心の底から欲していたものへの強い期待に、今、心と体が喜びで戦慄いている。 「ええ。構わないです！　お願いです！　俺を今すぐ滅茶苦茶に抱いてください！」 　九条は太賀の言葉に目を見張ると、掴んでいる太賀の手首を更に強く握った。 「いっ、それ、さすがに痛い……」 　そう言って顔を顰めた太賀に、九条はハッとして握っている力を僅かに弱めた。 　太賀は自分の性器と重なるように乗っている九条の性器を感じた。自分の性器と重なり合う九条のそれは、ドクドクと脈を打ち、硬質をこれでもかと極めながら嬉々と躍動している。 「見せて！　九条さんのそれ、俺早く見たい！」 　太賀は、九条の手を解くように力を入れるとそう叫んだ。九条はそっと太賀の手首を離すと、大賀の前でまた膝立ちをしながら、カチャカチャとベルトを外した。太賀は九条の 動きを息を詰めながら見つめた。そこには緊張と期待で、息をするのも忘れるほど集中している自分がいる。 　九条はベルトをシュルっとズボンから抜くと、ズボンのボタンを外し、下着ごと下に勢いよくずらした。 　太賀は目の前にそそり勃つ九条の性器に釘付けになった。初めて勃起をしている九条のそれは、完璧なまでに美麗で艶めかしく、そして何より長く大きかった。まるで怒りを込めているみたいに青筋を立てながらビクビクと脈を打っている。 　太賀は想像以上の光景に、感動と興奮で心がブルブルと震えた。 　自分は、自分がオメガである運命を今まで何度も呪ってきた。でも今、自分がオメガであるということをこれほど肯定できたことはない。九条と初めて出会った頃は、強引で傲慢な大企業の御曹司を心の底から嫌悪していた。それが、九条の人となりや生い立ちを知り、太賀は急速に九条に惹かれていった。でも、九条の不能は治らず、自分たちを深く苦しめた。それはまるで、運命の番という羅針盤の上で二人惨めに踊らされていたみたいな感じだった。でも、今こうやって二人、やっと進むべき道を見つけることができた。 「ううっ、九条さん……凄く奇麗だ……」 　太賀は九条のそれを崇めるように見つめると、そう心を込めて言った。 　九条はズボンと下着を全部脱ぎ捨てると、膝立のまま、上着も脱ぎ捨てようとシャツの裾に手を掛けた。太賀は、九条が腕を交差させながらシャツを脱ごうとする隙を付いて、九条にそっと近づくと、九条の性器に手を伸ばし、それを思い切り咥え込んだ。 　口の中一杯に広がる九条のそれは、自分の口腔内をも幸せに満たすほど愛おしく、とてもエロティックだった。太賀は慣れない口淫を、舌をふんだんに使いながら無我夢中でしていると、自分の口腔内を九条のそれで刺激されてしまい、そのせいで、触られてもいないのに、また自分の中心から精がトクトクと溢れ出てしまう。 　九条は太賀に性器を咥えられた瞬間、腹筋に力が入るのが分かった。見事に六つに割れた腹筋は、男らしさの象徴のような筋肉美を露わにしていて、それに太賀はひどく魅了される。 　九条は脱ぎ半端な服を床に放り投げると、太賀の頭を優しく揉みクシャにした。そして、はあ、はあと荒い息を吐きながら、太賀からの突然の愛撫に苦しそうに耐えている。 「うっ……た、太賀……もう離せ……」 　九条はギンギンに張りつめている性器を太賀の口から抜くと、膝立の状態で太賀の脇に手を入れ、自分の前に立ち上がらせた。九条は、太賀の足首にまだあるスウェットと下着を、太賀の足を片足ずつ上に持ち上げて脱がせると、太賀と九条は完全に全裸になった。 　今、九条の視線の先には、精を吐き出し続ける淫乱な太賀の性器がある。九条はそれを愛おしむように眺めると、優しく口づけをしながら口の中にすっぽりと咥え込む。 　その刺激に太賀は膝から崩れ落ちそうになるが、太賀にしっかりと腰を掴まれているせいで、そうならずに済んだ。 　九条は太賀のそれを咥え愛撫しながら、片方の手を九条の太腿に伸ばすと、太賀に、足を開いて腰を落とすようにと太腿を引っ張った。言われた通り足を広げ、腰を僅かに落とすと、九条はすっと太腿から太賀のあの部分に指を這わせた。 「あっ、ちょっ」 　太賀は焦って腰を引こうとしたが、九条に片手で腰を掴まれている太賀にはそれができない。九条は太賀の秘部を指で何度か焦らすようになぞると、その熱く湿ったそこに容赦なく指を突き入れる。 「はあっ」 　太賀はそのあまりの刺激に、指を入れられただけで、九条の口腔内で精を放ちそうになる。 「はあっ、ああっ……く、九条さん！　そこはっ……」 　太賀は、それだけなしたくないと何とか理性でその衝動をぐっと抑え込むが、九条は器用にも、口で太賀の性器を愛撫しながら、長い指で太賀の秘部を激しく掻き回す。そのせいで、太賀の秘部からはグチュグチュと淫猥な水音が響いて来る。そのイヤらしい音を聞いてしまうと、太賀の興奮は糸が切れた凧みたいに空高く舞い上がる。 「いやっ、ダメ！　それ以上は！」 　太賀は慌てて九条の口腔から自分の性器を抜き取ると、勢いよく床に精を放った。同時にオメガの特徴である秘部の内壁を指で激しく刺激されたせいで、今までに感じたことのない強烈な快感に、太賀は膝をガクガクと震わせると、犬のように四つん這いになった。 「はあ、はあ……九条さん……早くそれを、俺に下さい！」 　太賀は、四つん這いのまま九条を見上げそう強く懇願した。 （早く、早く、九条さんと繋がりたい。もう何もかも忘れて、この人とひとつになりたい！） 　九条はそんな太賀を見下ろしながら太賀の前に片膝を付くと、九条の顎をそっと掬った。 「太賀……俺が太賀を壊してもいいと言ったのは覚えているか？」 　九条は太賀をうっとりと見つめながらそう言った。その顔は、ゾクりとするほどの完璧なエロスを滲ませながら、神々しく輝いている。 　ついに完璧なアルファがここに覚醒してしまった。九条は今、凄まじい欲望を内包させた、美しくも完璧なエロスの権化と化してしまっている。 　太賀は、自分がこの男に太刀打ちできるのか不安になり、ゴクリと唾を飲み込むだけで、九条の問いかけに返事ができない。 　その隙に九条は、四つん這いでいる太賀の背後に素早く回ると、そのまま太賀の尻を鷲摑みにし、高く持ち上げた。 「く、九条さん？　何を」 　九条は、太賀の尻を両手で開き秘部を露わにすると、そこに躊躇いなく舌を這わせた。太賀はその衝撃に自分の体重を支え切れず、思わず肘を曲げると、片頬を床に付けながら声を上げて喘いだ。九条の舌はそこを執拗に舐め上げ、その刺激によって、太賀のそこからは愛液が止めどなく溢れ出てくる。 「はあっ、ああっ、いっ、やあっ」 　九条の舌使いは絶妙で、熱く湿った太賀のそこを、強く吸い上げたり、左右に小刻みに動かしたりしながら舐め続ける。 「ああっー　九条さん！　挿れて！　お願い！　早く挿れて！」 　自分の体からどっと汗が噴き出るのが分かる。体が燃えるように熱い。九条の舌はまるで、自分に火を付ける導火線のような役割を果たしている。そのせいで、太賀はついに我を忘れて九条に早く挿れてと懇願する。 　九条は気が済むまで太賀のそこを舐め続けると、最後に名残惜しむようにチュッと音を立てながら、太賀に秘部にキスを落とした。 「……太賀……俺は今興奮で理性を失っている……覚悟はいいか？」 　九条は太賀を仰向けにし、両膝を曲げてエム字に足を開かせた。そして、まだ一度も欲望を吐き出していない、自分のいきり勃つ性器を太賀の秘部に宛がうと、九条は一気にそこを貫いた。 「はあああっ！」 　自分は男とのセックスは九条が初めてだった。だから良く、自分のそこに男性器が入ってくる感覚を何度か想像してみたことがあったが、この自分の想像はあまりにも乏しかったことに気づく。 　太賀は九条の性器が自分の中にめり込むように入ってくる感覚に驚き、思わず絶叫した。痛いとか、裂けそうとか、そういう恐怖の感覚ではなく、ただ、自分の体が九条と繋がった瞬間、その劈くような快感と一緒に、心の底から満たされる喜びに溺れそうになる。 　頭にはチカチカと火花が散り、それはまるで夜空に広がる無数の星のように美しく、やっと繋がることができた二人を祝福しているみたいに感じる。　 「太賀！　太賀！　ああ、いいっ」 　九条は腰を激しく打ち付けながらそう言った。快感に恍惚した表情を見せる九条に、太賀は強い興奮を覚え、九条の手の指に自分の指を絡めるようにして握ると『もっと激しく突いて！』と九条を煽った。 　太賀に煽られた九条は、太賀の足首を掴み持ち上げると、自分の性器が、より深く太賀の奥を貫けるような体位を探り始める。 　九条はそれを素早く見つけると、まるで獣のように荒々しく乱暴に腰を打ちつけた。その腰使いは絶妙に太賀の内壁を刺激し、太賀を快感の沼へと容赦なく突き落とそうとする。 「はああっ、ああっ、イク！　いっ、イク！」 　太賀は九条の腰の動きに強い絶頂感を覚えると、体がブルブルと痙攣しだした。 「何度でもいけ、俺が太賀を……何度でも、何度でも、イカせる……」 　太賀は九条の言葉に感動し、胸が焼けるほど熱くなる。 「九条さん……愛してる……愛してる！」 　こみ上がる感情に突き動かされて太賀は叫んだ。でも、九条はいきなり太賀の耳元に顔を寄せると、そこで何かを囁いた。 「俺が太賀を見つけたんだ……多分、太賀は俺を見つけられなかった。だから、俺の方がお前を……もっと、もっと、愛してる……」　 「九条さん……」 　太賀は九条の言葉に涙が止めどなく溢れた。体の水分が無くなってしまうのではないかと危惧するくらい涙が零れ落ちる。 　九条はゆっくりと太賀の耳元から頭を起こすと、また自分の性器で太賀の中を猛然と突き上げる。 「はあっ、はああっ、九条さん、くっ、くるっ、どうしよう！　俺、き、きちゃう！！」 　九条は太賀に強い絶頂が近づいて来るのが分かると、汗を散らしながら、最後までその激しさを持続させながら、太賀に強く腰を打ち付ける。 　その時、天井に届きそうな勢いで太賀が精を放った。同時に九条も太賀の中に精をドクドクと放つと、二人はじっとりと汗で濡らした体で重なり合いながら、強く、強く抱きしめ合った……。