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第11話 2人で解決の糸口を探そう
席に戻ると、しばらく2人黙っていた。
どんな気持ちでこの旅行に来たかなんて、俺は、わかってるつもりでわかってなかった。
ヤギは落ち着いてきて、顔を上げると少し微笑む。
ごめんねと、つぶやいた。
「なんで、こんな思いしてまで、猶予が欲しいんだ? 」
ヤギが、視線を落として手袋を脱ぎ、ポケットに入れた。膝に置く手に手を重ねる。
ふと顔を上げて手を返すと、ギュッと握り合った。
うつむいて、震えるマツゲがまた濡れていた。
「あの家だけは、悪い思い出が無いんだ。」
「ああ、そうか、実家じゃ落ち着かなかったからなあ。」
「あの別荘は、家族3人の楽しい思い出しかないんだ。
母さんは、あの別荘が好きだったから、連休はよく泊まりに連れてってくれた。
静かでゆったりした時間が流れる。
あの家に行くと、とても眠れるんだ。」
「そうか…… お前の、精神安定剤なんだな。」
「うふふ、そうだね。」
うーんと、考える。
売らない、その方法が、あるとしたら計画の変更か……
いや、あの景観を売りにしたいとか言ってたよなあ。
解決の糸は何だ。担当じゃ無い俺には解決点が見えない。
ならば……
「じゃあさ、じゃあ、どうだ?
1度うちの会社に来て話してみないか? 」
「えっ? 」
「だって、売りたくないんだろう?
俺はお前の希望を聞いて来いって言われてきたんだ。
条件があるなら提示しろってな。
この担当、大学の同期なんだ。
俺も同席するよ、お前がどうしても譲れないことを思い切り言えばいい。
出来ることはやるだろうし、出来ないことは断るだろう。それでも、この状態でいるよりお互い前に進める。」
ヤギが、顔を上げて、大きく目を見開き俺を見つめた。
「ミツミ、俺、頼って、いいの? 」
「頼れよ、中高、一緒に帰っただろ。俺はお前のナイトだから。」
ヤギが大きく息を付いて、目を閉じる。
そして、脱力するようにもたれかかってきた。
「うん。」
肩に手を回し、ポンポンと叩く。
「な? 旅行、楽しもう。今度はどこに行きたい? 沖縄? 北海道? どこにでも行こう。一緒に行こう。」
「うふふ、やだな、まだ今日は始まったばかりじゃん。」
「そうだった、忘れてた。」
2人でクスクス笑う。
買って来たもの食べながら、これまでどうしてたか、会わなかった間を埋めるように話を交わす。
そうしているうちに駅について、荷物を旅館への配送サービスに預けると遊びに行くことにした。
「写真、撮りましょうか? 」
2人で展望所から景色を眺めてると、後ろからはっぴ着た観光案内の女性スタッフに声をかけられた。
そう言えば、写真なんて考えてなかった。
「俺のスマホ、古いから容量ないんだ。」
「じゃあ、俺のでたのみます。」
ミツミがスマホを渡してると、耳打ちされた。
「恋人? 友達? 」
景色見てるヤギに、背を向けてささやく。
「もちろん恋人。」
「よし、わかった。」
何がわかったのかわからないが、こう言うことには慣れているんだろう。
並んで立つと、一枚撮って、肩に手を回す仕草をされた。
「なに? 」
「なるほど~ 」
グイッと肩を引き寄せ、頬を寄せる。
「えーー ! 何すんだよっ! 」
ヤギが驚いて、俺のほっぺたをグイと押す。
そこをすかさずシャッター押した。
「グフフフフ、これはいいな! 」
「この変態! 」
怒るヤギをそっちのけで、女性スタッフにはチップをはずむ。
「あたしの店そこなの! 」
「オッケー ! 」
土産物屋を指さされたので、ヤギを引っ張って買いに行った。
おそろいでキーホルダー買って、美味そうなつまみを今夜用に買う。
「お兄さんたち、かっこいいねー 」
「じゃあ、これも。」
褒められると、どんどん財布の紐が緩くなる。
ヤギに引っ張られて、店を後にした。
「もう!こんなに買っちゃって!今度どこ行くの? 」
「今度はこの旧家だな。
庭がすげえ綺麗らしいぞ。そこに洒落たレストランあるから昼食おう。」
「へえ庭か~、そう言う趣味あったんだ。」
「だいたい日頃コンクリばっか見てるとさ、綺麗に手入れされた庭も見たいわけよ。
もうちょっと早ければバラだったんだがな。
俺いつか庭のある家住みてえ。」
「なるほど、それは一理あるな。
確かに庭は落ち着いた。草取り大変だけど、母さんもバラ育てていたっけ。」
「バラはなあ、バラはいいぞう。あ、バス来た。これこれ! 」
旧家に着いたら有名なところなのか、意外と観光客が多い。
金払ってパンフ広げると、ここが見たいんだとウキウキして裏の庭園に向かう。
「金持ちの家か~ 」
「昔のお前んちみたいじゃん。」
「こんな綺麗じゃなかったなあ。
もう使わない部屋はくたびれてたし、雨漏りもしてほんと困ってた。
夜になるとコウモリ飛んでてさあ、俺は修理する金も無くて途方に暮れてたんだ。
だから、お前の話は有り難かったんだよ。」
有り難いだなんて……
「そんなこと言うな。」
返す言葉もなく、手を繋ぐ。
騙されなければ、あの家が適正な価格で売れれば、ヤギは普通に暮らせてた。
跡に立ったタワマンの建築主は、驚くほどの安値であの家を買って、もの凄い利益を上げたんだ。
あの詐欺事件で一番被害額が大きかったのは、他の誰でもないヤギだった。
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