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第12話 夢の世界とリアルな世界

 観光地らしく室内装飾は贅沢で素晴らしく、ヤギはすっかり元気取り戻して、昔のように素直に笑って、驚いて、綺麗なものに目を輝かせる。    「ここ来て良かっただろ? 」 邸内のレストランで昼のコース料理食べながら、パンを千切るヤギは料理が来るたびに感嘆の声を上げる。 最初、食べてもいいのかな? って聞くので、笑って当たり前だろと答えた。 「ああ、こんな綺麗な世界がさ、普通だったんだよなーって、目の洗濯した。 夢みたいだ、こんな綺麗でゆっくりした時間、ウソみたいだ。 こんな、ゆっくりしていていいのかな? ほんとに、ほんとに美味しい! 夢みたいだよ。」 「良かったな。また来ような。」 「ああ、牛肉なんて久しぶりだ。ソースも美味しい、残したら勿体ないよ。 これ、凄く手がかかってるよ。」 肉料理のソースまで綺麗にパンで拭いて食べる。 ヤギの食べた皿は洗ったように綺麗だ。 がっついてるなーって、思わず苦笑した。 「目の洗濯か~ 」 育ちのいいヤギは、ドーナツ食ってる時よりこう言うところが様になる。 自分は冷たいおにぎり食べながら、人に美味そうなホカホカの料理を運ぶのは、こいつにとってどれだけ苦行なんだろう。 「あら? 美里さんじゃなくて? 」 ヤギが驚いて顔を上げる。ここで知り合いに会うなんて思ってもいなかった。 「久しぶりね。あら、こんな所に来る余裕が出来たのね? 立派な服着て、支払いはちゃんとしてるの? あら? お母様にそっくりになったわ。」 ヤギがうつむき視線を巡らせる。 少し嫌な顔してナイフとフォークを置き、微笑みながら立ち上がって、椅子の横に立つと、一礼した。 叔母は、品定めのように頭からつま先まで見ている。 ヤギは貰ったもの総動員で、きちんとしてきて良かったと思った。 :淑子(よしこ)叔母様、お久しぶりです。 滞りなく返済していますのでご心配なく。 少し落ち着きましたので、友人と旅行に参りました。ご心配おかけして申しわけありません。」 「そう、そんな余裕が出来たのね。今はどこに住んでいるの? 」 「今はまだ、叔母様にはとてもお見せ出来ないところです。 当てが出来たので、そろそろ出ようと思ってます。」 「そう、引っ越したら連絡頂戴。 別荘売りに出すんですって? 早く売れば? どうせ住んでないんだし、あなたには別荘なんて贅沢よ。それにラクになるじゃない。」 「はいご心配おかけします。考え中です。」 「そう、じゃあね。会えて良かったわ。」 叔母の友人のような女性が手を上げる。 それに手を上げ返して、バッグから取り出したメモに携帯の番号を書いてヤギに渡した。 「私の携帯よ、正輝兄には絶対教えないで頂戴。アドレスに入れたら燃やして。じゃ。」 「はい、ありがとうございます。」 淑子は友人のところに戻ると、ため息を付いた。 こんなところで会うとは思わなかった。 でも、相変わらず綺麗な子、下の兄が狂う姿が見えるようだわ。お母様が美しい方だったから。 少し妬ましい気持ちもあって、冴えない顔で席に着く。 友人が、美里を見て淑子に声を潜めた。 「ステキな子じゃない、ホスト? 」 「違うわよ、例の騙された子。 ビックリしたわ、一緒に来てる子、確か友達の加害者よ? 何考えてるのかしら。 怨みの一つくらい言えばいいのに、あんなに親しそうにして、馬鹿みたい。」 「あら、ホストならすぐに借金返せたんじゃない? 凄い綺麗な子。何て店かしら? 」 「ホストでもやって返せば良かったのよ。連絡無いから調べさせてビックリしたわ。 ホームレスで公園に住んでたのよ。 あの顔でホームレスよ? 信じられない。 危ないから人使って支援住宅に入れたけど、まだそこにいるみたいよ。凄い古くて汚いところ。」 無理して随分いい格好してるけど、薄着で安っぽい靴、見栄張っても生活が見えるわ。 「それって、ひどくない? せめて住居くらい世話して上げればいいのに。」 「そりゃあ、アパートの保証人くらい、なってあげたかったわよ。 でもあの子、下の兄に小さい頃から目をつけられてるの。正直、関わりたくないわ。 親戚の誰か、世話してくれればいいのに。」 「まあ、冷たい叔母だこと。」 ため息付いて振り返る。 友人と楽しそうにしているし、別荘売るんだからきっと大丈夫だわ。 「別荘売るって言ってるから、大丈夫よ。」 「あら、資産持ってるなら大丈夫ね。」 気楽に友人は返してくる。 あの兄が居なければと、何度思っただろう。 美里が性虐待されていると知った時、当然警察に行くだろうと思っていたのに、上の兄は世間体を気にしてかとうとう行かなかった。 「あの兄、死んでくれればいいのに。」 淑子は1人つぶやいて、食事を続けた。     ミツミが身を乗り出して、淑子を見る。 「叔母さんって、あの? 」 「そ、借金の保証人。何度土下座したか覚えてないよ。 人使ってホームレス止めろって言うから、今の家、ボランティアに世話して貰った。」 「えっ?! なんで? ホームレス? 」 「だって、出て行けって言われたから。別荘は住もうにもあの辺、バイトなんかないし。 保証人頼める人いないからアパートも借りられなくて、身の回りの荷物だけ持って公園に住んでた。」 「何で、今、どこに住んでるんだ? 」 ヤギは黙って、返事しない。黙々と食べて、首を振った。まあ、外よりマシな程度なんだろう。 「なあ、うちに来いよ。」 ヤギが渋い顔になった。 きっと迷惑かける。叔父の顔が頭の隅から離れない。 「あの叔父さんだろ? 心配なのはさ。大丈夫だよ、今社長だぜ? 変なことしたら社会信用に傷が付くだろ? きっとそっちが怖いはずだよ。」 「いい…… 大丈夫だから。」 うつむいて、考えても楽観的なことは浮かばない。 電話の声が、今でも執着していることを表していた。

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