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第18話 電話での応酬
すうすう
ヤギの気持ちよさそうな寝息に聞き入って、ミツミは縁側の椅子に腰掛け、ライトアップされた庭を眺めていた。
ブブブブブ
自分の携帯が鳴っている。八田からだ。
「三井だ。」
『よう、ハネムーンはどうだ? 』
「冗談じゃ無い、俺は生きろっていうので精一杯だよ。」
『どういう事? 』
「そう言う事さ、とことん追い詰められてんだ。
あまり調子乗ってると、新聞沙汰になるぞ。そう上に言っとけよ。」
『サイン、どうだ? もらえた? 』
「いいや、まだだよ。」
『お前、そいつと旅行行ってるの、社長に気付かれたんじゃね? 』
「ああ、バレてるよ。あいつが始終見張られてるなんて知らなかった。」
『前、写真見せたろ? デートの写真、あれ、社長に貰ったんだ。』
「マジか、気持ち悪い奴だな。」
『まあ、そう言うな。
お前デートって言っても否定しないんだ? 』
「えっ?! 」
思わず口を塞いで、慌てる。
もうバレた。諦める。
「そうだよ、好きでアタックしてる。」
『へえ、で? いい返事貰った? 』
「こいつは借金に捕らわれてる限り、ウンとは言わないよ。
人に迷惑かけるのが、本当に嫌なんだ。
で? 用があるんだろ? 」
『ああ、そいつに余計なこと吹きかけて工事が遅れるなら、業者変更するって言われたよ。
お前の携帯の番号教えろって言うから、』
「教えたのか? 」
『プライベートですのでって断った。』
ハアッと安堵の息が出た。
中学の時、滅茶苦茶嫌がらせ受けて、電話何度も変えたから。
俺は中高、あいつに付き合って、以外と怖い目にもあっている。
だから余計運命共同体で、俺とこいつの繋がりは深くなった。
ただ突然地方の大学へ行くと言いだしてショックだったけど。
それはそれで、あいつは叔父から離れたかったんだろうと思う。
『でも悪いけどさ、明日社長、訪ねることになったから、戻ってくれる? 』
「えー、わかったよ、何時? 」
『3時。2時50分到着のがあるから、それに乗ってくれ。
特急のチケットこっちで準備したからQRコード送る。
グリーン席は自分で買え。
駅まで車で迎えに行く、西口で待ってろ。
で? なんかこっちへの要求聞けた? 』
「どうしてもあの別荘手放したくないってさ。
いい思い出が多すぎる。
あいつの気持ち考えると、俺は無理強いは出来ない。」
八田のため息が聞こえた。
「とにかく話し合いで、妥協出来る線を探してくれって言ったから。
俺も同席する。
恐らくそれで道は開けると思うんだ。対応策用意してくれよ。」
『わかった、来週席を設ける。
平行線よりマシだ、助かった。』
ブブブブブ ブブブブブ
テーブルにある、ヤギの携帯が鳴り始めた。
「あいつの電話が鳴ってる。叔父だな。」
『タイミングいいな。じゃあ明日。』
ブブブブブ ブブブブブ
じっと見ていると、しつこく鳴り続ける。
ヤギは寝入って気がつかないので、思い切って取った。
『美里、何故すぐに取らない。
ベッドか? あいつと寝てたんだろう。』
「もう、いい加減にしてくれませんか? 」
『ああ、三井君か、久しぶりだね。
感動の再会で熱が再燃したかね? 迷惑だな、美里は今厳しい状況に置かれている。
言いよれば簡単に寝るだろう。だがね、』
なんでこいつの中の美里はこんなに尻軽なんだよ、ほんとこいつ病気だろ?
「ふざけるな、美里をなんだと思ってる。
あんたがどんな犯罪やってたか、俺達は十分すぎるほど知ってる。
父親の弟が何で甥にこんなことするんだよ。
異常だよ、こいつを恋愛対象にするの止めろ!
もういい加減に美里を自由にしろよ。
あんたのせいでこいつは親族から村八分だ。
もう十分苦しんだの、知ってるんだろ?
あんたがどんなに追い込んでも、こいつはあんたの所には行きやしない。」
『口の減らない奴だ、本当に変わらないね。
私が何してたかなんて、どうやって証明するんだい?
美里に語らせるのかい?
恥ずかしいことを延々と、大勢を前に語らせるのかい?
いいね、そう言うセカンドレイプは私も好きだな。
無駄だよ、私はどんな事をしても美里を手に入れる。
諦めろはこっちのセリフだ、本当に腹立たしいな。
同じベッドで寝てみろ、お前など社会的に抹殺してくれる。』
「ははっ、俺達の部屋、ベッド1つしか無いから、どうだろうなあ。
だってこの部屋、ダブルだもん。」
『 なっ! んだと?! 』
電話を離すと、罵詈雑言が電話から飛び出してくる。
しばらくして、切られて切った。
一応今のは録音したけど、社会的に抹殺とか、何してくるのか寒気がする。
録音ファイル、全部俺の携帯にも飛ばして保管する。
脅迫罪にも出来るかもしれない。
弁護士の友人にも話を聞きに行こう。
「さあて、やること多いな。来週から忙しいぞ。」
ヤギはしばらく寝たあと、目を覚ますとまわりを見回し、旅行が夢じゃ無かったことにホッとしているようだった。
「お、起きた? よく寝たなー 」
一人で、買って来たつまみ食べながら一杯やる俺に気がつくとニッコリ微笑む。
あー、笑ってる方がウンといい。頼むからもう泣くな。
「あ、良かった、夢じゃ無かった。
ごめん。なんか気持ちよくて寝ちゃってた。
ここは本当に快適で、ああ、夢のようだ。」
「夢じゃないよ。今日は楽しかったな。」
「うん。なんか電話してた? 」
「ああ、聞いてた? ごめんな、明日帰らなきゃならなくなった。」
「そう、いいよ、もう十分楽しんだし。」
少し、寂しそうな声になる。
俺は、額を叩いてヤギの所に行くと、横に座った。
「今度はお前が行きたかった所に行こう。
別荘に行くつもりだったんだろう? 」
「うん、一緒に行って…… 」
また暗い顔になる。
もう、こいつの頭は死ぬことしか考えなかったんだろう。
横に寝そべって、じいっとヤギを見る。
「な、1度帰ってまた行くか? 」
「いいよ、そんな急がないで。」
「だって、お前ガッカリしてるじゃん? 」
ヤギが、俺の方を見る。
二人、見つめ合うと顔がカッと熱くなった。
「くふふ、」
「なんだよ~ 」
「なんでそんなに良くしてくれるの? 」
「だから言ったじゃん。俺はお前のナイトだからだよ。」
「そんな事…… 学生の時助けてもらったから十分だよ。
これは俺の、自分でやったことの結果なんだから。」
「また流されそうとする。
俺はな、好きでもない奴に一緒に暮らそうなんて言わないぞ?
好きな奴が泣いてたら助けるのが当たり前だろ?
今度は失敗しない。友達の弁護士にも頼んで慎重にやるから大丈夫だよ。」
ヤギが苦笑して、視線を外す。
「もう、十分だよ。僕の借金、ミツミまで関わることは無い。
ああ、この話がなければ、ようやくラクになったと思ったのに。」
起き上がり、ヤギの手を握った。
本当に、なんでだろう。
「ごめんな、なんで俺の会社ばかりなんだろう。
でも、今度は俺の会社だからこそ、間に立つ。
ヤギ、この話提案したの、お前のあの叔父らしい。」
「えっ?! 」
驚いて顔を上げた。
「ああ、やっぱり…… きっと僕はあの男から逃げられない。」
「駄目だ、諦めるな、お前はもう1人じゃ無いんだ。
一緒に頑張ろう。」
「もう頑張るだけ頑張ったよ、もう疲れたんだ。もう嫌なんだ。」
「そう、そうだな。頑張らなくていいよ、お前は頑張らなくていい。
さっき、返事が来たんだ。一千万、都合がついたから。
これからは、一緒に返そう。」
ヤギが身を起こして、呆然と口を開いた。
「誰……? 誰から? 」
大きく息を吸い、言うべきか考える。
ヤギは、自分が都合を付けると言っても喜ばなかった。
人に迷惑かけたくない、かけるくらいなら死を選ぶ。そんな奴だ。
そんな奴なんだ。それでも
「親父から。」
一瞬で顔色が変わった。
「あああああ、あああああああ! 」
頭をかきむしり、背を向けて小さく身体を丸める。
肩が震えて、恐ろしいほどに心の乱れが目に見える。
「イヤ、イヤ、イヤ、イヤッ! 嫌だ! 嫌だっ!! 」
髪を振り乱してヤギが身を翻し、庭に面した窓へと駆け出そうとする。
俺は咄嗟に彼の身体を抱きしめると、そのまま押し倒した。
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