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第28話 ミツミがきっと、助けに来る
俺は、めまいがして死にそうだ。
美里の叔父の? 八田が愛人だって?
吐きそうだ。誰か助けてくれ。
「お前はあいつとグルだったのか。」
「俺は、正輝の気持ちを何とか自分に向けたい一心だった。
自分がこんなに嫉妬するとは思わなかったよ。
お前からあいつの話聞くたびに、殺したいくらいだった。
でも、でも、まさかこんな事するとは思わなかったんだ」
「お前は、あいつをどうしたいんだ? 」
八田は、口を閉ざしてハンドルを握る。
何かそこに決意が見えそうで、ミツミは前を見た。
「あんな奴、刺し殺しても損なだけだ。」
ギクッとハンドルが動揺する。
「なんで、わかった? 」
「そんなの珍しくも無い。
お前は好きになっちまったんだろ? あのカス野郎を。
本当に捨てられたのか? あんたあいつと昨日寝たんだろう?
だったら、向こうだって未練たらたらじゃないか。
でも俺はあんな奴、警察に掴まればいいと思ってる。」
「でも、あいつは社長だ。
今、会社は業績も良くて株価も上がってる。
あいつが捕まると、会社にも社員にも、全部に傷が付く。」
「お前はそいつらの為に、美里に我慢しろって言うのか?
あいつはまるでガキだ。
気に入ったオモチャに執着してる。
性格異常者だ、あんな奴が社長を続けるなんて、社員も全てが不幸でしか無い。
お前は自分がどんな目にあったか忘れたのか? 他社の新入社員に手を出す奴だぞ?」
「一目惚れだって、言われたんだ。
新卒から今まで一緒で、浮気はしたけど、最後は俺のとこに戻ってくれた。
やっぱりお前がいいって、言ってくれたんだ。」
「じゃあ、お前が何とかしろよ。
ちゃんと管理しろよ!
でもな、あいつが美里にやったのは立派な犯罪だ。必ずいつかは警察沙汰になるぞ。」
「わかってる。
バッグの中に写真が入ってる。見てくれ。」
「写真? 」
車を路肩に止めて、後ろからバッグを取りだし、中から数枚の写真をミツミに渡す。
「なんだ? カード? 通帳? カギ?
なんだこれ。」
「開けるなって言われてた引き出しのカギ取り寄せて開けてみたんだ。
恐らく美里って子の父親の遺産だ。
妙にまとまっているだろう?
恐らく資産管理してた弁護士買収してる。
息子に見せずあいつに渡したんだ。」
呆れて、バンッとダッシュボードを叩いた。
こんないい車に乗りやがって、この車だってあいつに買ってもらったんだろ、飛び降りたい気分だ。
「なんて…… こった。
だからあいつの資産って不動産ばかりだったんだ。
助かった、恩に着る。
なんて徹底した奴だ。マジで怖い。」
「俺も、 そう思う。
ただ通帳の金はほとんど引き落とされてる。
億の金だから、運転資金にしたと思う。
その頃、公共事業の大きな仕事してるんだ。
裏帳簿と見合わせたら、議員にかなり金をばらまいてた。
でも、そのおかげでネームバリュ―付いて大きな仕事が入るようになってるんだ。
カギは、何だろうな。調べようにも、あいつの家はもう無い。」
「はあ、こう言うの、どうなんだろう。
窃盗にはならないんだろうな。民事か。」
「さあ、 俺にはわからない。
ここだ、ここセキュリティ厳しくて、カードキー無いとまったく入れない。」
「カギ持ってるのか? 」
「持ってる。スペア勝手に作った。
追い出されたら、刺してやろうと思ったから。」
「十分お前も怖いよ。」
「うるせー、こいつのせいで俺の人生グチャグチャだ。
最後まで面倒見ろって言いたいんだよ。」
正輝は、美里を運び込むとベッドに横たえ服を脱がせにかかった。
コートを脱がせ、手袋脱がせ、靴下脱がせて、ズボンのベルトを外す。
ふと、自分はコートも脱いでいなかったことに気がつき、ポケットからスタンガンを取りだして枕元に放るとコートを脱いだ。
「う、う、」
やっと意識を取り戻して、美里が視線を動かす。
何があったのかわからず、見た事もない部屋に記憶を探る。
正輝の顔が見えて、ハッとした。
しまった
油断した
狭い部屋。窓一つ無いところを見ると、きっとあとから作った部屋だ。
キングサイズのベッドは、どうやって入れたのかもわからない。
何に使うかわからないような道具が散乱して、みんな性具かと思うとゾッとする。
「美里、気がついたか、久しぶりだな。
スタンガンの味はどうだった?
ほら、なかなか刺激的だろう? 最強ってのを選んだんだ。 」
スタンガンを見せると、険しい顔になる。
まわりを見回し、顔を背けて目を閉じた。
「美里、久しぶりじゃないか、ゆっくり楽しもう。
え? 昨夜はどうだった? あいつのペニスをここに咥えたのか? どんな味だった? まったく不愉快な甥だな。
私の気持ちを知っていて、何故当てつけのようなことをする。」
バンッ! バンッ!
何度も頬を平手で叩かれ、美里が力の入らない手で遮ろうとする。
「や、めろ、変態。お前なんか、嫌いだ。」
「いいぞ、もっと口汚く罵るがいい。
スタンガンを、ここに当てたらどうなるんだろうな。え? やってみるかい? 」
正輝がスタンガンを股間に押し当てる。
美里は息を呑んで、一瞬凍り付いた。
「いい服着てるじゃないか。
男に媚びて買ってもらったのか?
昼のバイトの店長、お前に随分ご執心だったじゃないか。
こっぴどく振られて苦々しい顔していたぞ。
金を渡して、きついシフト組めと言ったら、言われなくてもサービス残業増やすと言ってくれた。
なかなかきつかっただろう?
髪がバサバサだ、瑞々しかった肌もガサガサ、まるで老人だ。
こんな無様な姿であいつに告白された?
馬鹿だな、それは本心じゃ無い、ただただあいつの罪悪感だよ。
愛なんかそこには無い。
なのに、そんな奴のペニスをくわえたのか?
本当に愚かな奴だ。」
バシッ
また平手で叩かれて切れたのか、口の中に血の味が広がる。
正輝の暴力は容赦が無い、昔から本気で殴ってくる。
子供の頃は、見えないところばかり殴られた。
怖くて怖くて、言いなりになるしか無かった。
でも、でも今は違う!
ミツミ、ミツミ、きっと、きっと、きっと、
絶対来て! 僕の騎士!
「僕らの何がわかる。
あんたなんかの薄っぺらな感情なんて、何も本物なんか無いじゃないか! 」
バシッ 「はぐっ! 」
痛い、痛い、けど、負けない
「そ、そうやって、人を暴力で押さえつけることしか知らない。
だからあんたは誰も幸せになんか出来ない。」
「黙れ。」
「ここは家じゃないんだろ?!
ははっ! 家から追い出されて、こんな事して気を紛らしてる。」
「 黙れ! 」
「お前なんか死んだって誰も悲しまない! 」
ギリギリと、歯がみして正輝の顔が醜悪に歪む。
また手を上げかけて、スタンガンを握った。
「なんて下品になってしまったんだ。
お仕置きしなくてはならないようだね。
どんな悲鳴を上げるのか、聞かせてくれよ美里。
今夜は快感で狂わせてくれる。
動画に撮ってネットにばらまいてやるさ。」
ゾッとした。
こいつ狂ってる。
こんな奴、お父さんの弟じゃない。
「さあ、楽しもうじゃないか。」
笑う顔が狂気に満ちている。
僕は勇気を振り絞り、股間に伸ばす手を思い切り横から払った。
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