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第29話 お前が受けた痛みの分だけ
思い切り、正輝のスタンガンを握る手を払った。
スタンガンがベッドの端に吹っ飛び、カッとした正輝がまた殴り始める。
「お前は!しつけが必要だな。」
バリッ! ビイイイイイイッ!
シャツを引き裂き、飛び起きて逃げる美里から片袖を抜いた。
「美里ッ! 何故逃げる、逃げても逃げ場なんか無い!
お前はここで一生飼われるんだ。
二度と逃がすか! 」
ドアへ逃げて、ドアノブを回しても開かない。
そこは、内からも外からもカギが無いと開かないものだった。窓も無い。完全な密室だ。
「逃げられないぞ、ほら、このカギが欲しいか。」
追えば逃げる、捕まえようにも掴まらない。
必死であらがう美里に、だんだんイライラしてくる。
真ん中のキングベッドが邪魔で、怒りに鬼のような形相で正輝がベッドサイドからムチを取った。
バシッ!バシッ!
「ひっ! 痛っ! 」
初めてムチを受けた美里が、その痛さに顔を庇って動きを止めた。
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
「止めて! 痛い! 」
ハア、ハア、ハア、ハア、
正輝が手を止め、床に小さくなる美里を見下ろす。
身体に昨夜の情事の跡が見える。
苦々しさに、何度もムチを振り下ろす。
ムチが当たり皮膚が切れて血を流す美里は、恐ろしく扇情的だった。
「脱げ、全部だ。」
「嫌だ。嫌だ嫌だ、助けて、助けて! 」
「 無駄だ! 」 バシッ! バシッ!
「 脱げ! 」
恐ろしいほどの命令に、恐怖で顔を覆って泣いている美里が座り込む。
正輝が、その腕を掴んでベッドに放った。
突っ伏す背中を膝で押さえ、シャツの残った半分を引き抜き、肩を掴んで身体を返す。
「いや! イヤッ! 」
頭の上で腕を押さえて、無理矢理口づけしようとしても、顔をそらす抵抗に、正輝が脅しをかけた。
「美里、またスタンガンを味わいたいか。」
その言葉に息を呑んだ。
駄目だ、ここで失神したら好きに犯される。
それだけは嫌だ、時間を稼がなきゃ。
美里の抵抗が弱まりククッと正輝が笑うと、髪を掴み、顔を向かせて無理矢理口づけする。
舌を入れようとしても、しっかり口を閉じて入る隙が無い。
バシッ、バシッパンッ
腹立たしさに、何度も頬を殴りつける。
「そのつもりなら、こっちも容赦はいらんな。」
殴られて気が遠くなる美里のズボンのボタンを外し、ファスナーを下ろす。
下から引き抜こうとした時、チャイムが鳴った。
ピンポーーーーン
ハッと、ドアを振り返る。
ピンポーン、ピンポーン
美里の意識が戻り、思い切り叫んだ。
「ミツミ! ミツミーーーー !
健人! 助けて! 助けてーーー ! 」
室内は防音にはしていないので、小さく曇った廊下の足音が聞こえてくる。
「美里!! どこだ! いるんだろう?! 」
「ミツミ! ミツ…… 」
正輝がガッと口を手で押さえた。
「気に入らない、不愉快だ。」
正輝がスタンガンを胸に押し当てる。
手を離した瞬間、身体を起こしかけたところでスイッチを入れられた。
「 ミツ…… ぐっ! 」
身体を跳ね上げ、結んでいたゴムが外れて髪が広がる。
ドサンと落ちたベッドで横倒しになり、正輝は上を向かせると更に胸にスタンガンを押し当てた。
「お前はしばらく黙っていろ。」
バシッ バシッ バシッ バシッ
何度もスイッチを入れると、美里は衝撃に身体を跳ね上げる。
騒がしいドアの外に舌打ちして、スタンガンをベッドに放り投げるとドアに向かった。
ドンドン、ドンドンドンドン
「開けて、正輝、僕だ。」
「裏切り者が、何故カギを持ってる。」
「あなたがすぐに僕を裏切るから、カギを作ったんだ。
止めて、僕とあなたのベッドで、他の男と寝るのは止めて。」
八田が、驚くほどに女になっている。
ミツミは驚いて口を塞いだ。
カチャ、ガチャン
ドアが、うっすらと開き正輝が姿を現した。
「そのベッドは、僕とあなたのだ。
他の奴と寝るのは許さない。」
「深雪……」
正輝が険しい顔で八田深雪を見つめる。
ミツミが横からドアを開き、部屋に飛び込むと正輝に殴りかかった。
「き、貴様! 止めろ、訴える…… 」
ドカッ
「 がっ! 」
正輝が殴られ、ベッドに倒れ込む。
あまりの痛さに、頬を押さえて悲鳴を上げた。
「ぐっ! 殴ったな! 殴った! この私を! いだいいだいいだい、ひいい! 」
彼は、初めて殴られたのだ。
人に暴力を振るっても、殴られたことなど一度も無い。
必ず暴力を振るい、優位に立ち、自由を奪って思うがままに人を陵辱してきた。
彼は、ひどく痛みに弱かった。
「この野郎、一発じゃ収まらねえ! 」
ドカッ! 「ギャアッ! 」
尻を思い切り蹴り上げる。
悲鳴を上げて、ベッドを這いずり逃げ回った。
「ひ! ひ! い、痛い! ひいっ! 止めろ! 止めてくれ!
訴える! 訴えるぞ! 痛い! いたぁい、訴えてやる! この暴漢が。」
気を失っている美里の顔は、顔中殴られ真っ赤になって、口から血を流している。
服は引き裂かれ、これから何をしようとしたかが言われずとも見えた。
「この野郎、美里を何発殴った!
同じ数だけ殴ってやる! 」
ふううう……
「やめろ、止めろ! 訴えるぞ! お前なんか社会的に 」
「殺してみろよ、その前に喋れなくなるまで殴ってやる。」
「ひ、ひいっ! 」
剥き出しの牙を出して拳をかざすミツミに、正輝が震え上がった。
初めて経験する恐怖に、初めて経験する痛みに涙がボロボロ流れる。
ガクガク震える手で顔を覆い、ベッドに小さくなった正輝にミツミが苦い顔でスマホを取り出した。
「何するの?! 」見ていた八田が、思わず叫ぶ。
「警察呼ぶ。」
八田が、思わずその手に飛びついて掴んだ。
「もう少し考えよう! 」
「何を考えるってんだ! この状況で! 」
「そ、それより、あいつ大丈夫かな? 先に見た方がいいと思うぜ。」
まだ迷いのある八田を振り切って、ミツミが歩み寄ると気を失っている美里の顔に手を伸ばした。
「おい、美里、大丈夫か? 」
スタンガンが、どれだけ影響があるのかわからない。
身体を揺り動かしながら、顔色がどんどん悪くなって行くのに気がついた。
揺り動かしても、ピクリともしない。
おかしくないか? 本当に生きてるのか? 不安がドッと押し寄せた。
「ヤギ! ヤギ! 美里! 」
身体を抱えると、ドサンと手が落ちる。
首がぶら下がり、目は半分開いたまま土色の顔には、生気が無かった。
「おい、おいっ! あんた何をした?! 美里ッ!! 」
スタンガンを見て、八田が声を上げた。
「三井! 心臓だ! 心臓マッサージしろ! 」
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