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第31話 心の支えを剥ぎ取る行為

 救急車で総合病院について、救急で処置を受ける間、待合室で待つように言われた。 けど、我慢出来ずに廊下でうろうろする。 看護師が、ミツミを見つけて小走りで来た。 「すいません、谷木さんのご家族の方はお見えになりましたか? 」 「あいつ、両親早くに亡くしたもので、一人なんです。」 「あなたは? 」 「パートナーです、今日から一緒に暮らす予定だったんですが。 家族になりませんか? 」 「意識が戻って同意が得られればいいんですが。」 「あ、あの、あの、二人で旅館行った帰りなんです!  俺の用があって、落ち合ってマンションに帰る予定だったんですが。 なんとか家族で認めてください! ちゃんとセックスもしました! お願いします! 」 看護師の女性の顔が、ポカンとして、ボッと真っ赤になった。 目をそらして、うつむいてしまう。 ミツミが慌てて口を塞いだ。 「あっ、あーー、失礼しました! でもですね、なんとかお願いします。」 「ちょっと上に聞いて来ますね。」 頭を下げて、ため息を付く。 「そうか、同性は結婚出来ないんだったな。 どうすりゃいいかな。」 しばらくすると、八田が来て、車に置いていた荷物持ってきた。 「どうだ? まだ処置中? 」 「わからない、俺を家族と認めてくれるかの瀬戸際。」 「あー、それあるんだよな。 俺も正輝との間で委任状のカード作って持ってる。 パートナーシップ制度は、正妻いるから使えないんだよ。 離婚してって言うけど、会社は正妻のだし。 お前らはしといた方がいいぞ。家族として認められやすい。」 「わかった。さっきは助かったよ。 お前、何でこんなのわかった? 」 「アメリカいた時、ポリスのティザー銃で人が死んだのが話題になってたんだ。 心肺蘇生、この間会社で希望講習やってただろ? 」 「そうだっけ? 行けば良かった。 くそ、医者から話が聞けなかったらどうしよう。あ、叔母さん! 」 ヤギのスマホを取り出して、ちょっと考える。 「ロック解除出来るのか? 」 「ああ、出来れば叔母の電話がわかる。」 「そりゃ無理だよ。」 無理だって? そんなの、俺にはわかる。 そんなの、あいつの気持ちを考えればこれしか無いんだ。 その数字をいれると、パッと画面が開いた。 「開いた! ウソだろ? 何の数字だ? 」 「あいつの、だまし取られた実家の電話番号。」 八田が顔を上げて絶句した。 「お前達には、俺達には、わからないんだ。 どれほどあいつの心を、俺達デベロッパーが傷つけたか。 若くして親を亡くしたあいつから、恐ろしいほどに、無頓着に心の支えなんて考えず剥ぎ取ったんだ。 俺はこいつと再会した時、生きててくれて良かったと思った。 だから俺は、これからこいつの為に、全身全霊をかけて幸せにする。」 「それは…… わかるけど、このままじゃお前、左遷されるぞ。」 「妥協点を一緒に探す。 あと、恐らく警察が介入したことで、イーアイ・コンサルプランニングの仕事は遅れると思う。」 「刑事事件にならなきゃ、関係ない。」 「俺は何もしないし、静観するけど、恐らく警察が関わったら逮捕されるし、マスコミは動くだろうさ。 あの男は小学校から美里に性虐待を繰り返していたし、それを親族はみんな知ってる。」 「そ…… んな…… 事…… 」 「あんな奴と付き合うって言うなら、相応の覚悟がいるって事さ。 じゃあな、荷物ありがとうよ。」 八田が蒼白な顔で戻って行く。 あいつがそれでもあの男と付き合い続けるって言うなら、あいつの人生だ。 俺には何も言えない。 叔母の電話番号、見つけて電話する。 無関心かと思ったら、すぐに行きますと言ってくれた。 良かった、心配してくれる人がいる。 大きく息を付いて、入院に必要なものを聞きに行かなきゃならないと思う。 しばらくすると、叔母が蒼白な顔で旦那さんと来て、一緒に医者から話を聞く。 心臓は安定したけど、栄養失調で全身状態が悪いのでしばらく入院になった。 まだ意識は戻らない。 叔母が入院の準備は私がしますというので、お願いする。 自分がただの友達じゃ無いことは、わかっていますとうなずいてもらえてホッとした。  病室に移されたヤギは、顔色が悪くて、堅く目を閉じて起きる気配が無い。 「とにかく、助かって良かったわ。何があったのか教えてくれる? 」 叔母は、当たり前のように聞いてくる。 俺は、グッと手を握りしめ、意を決めて彼女に問いかけた。 「どうして、事件の時、美里の力になってくれなかったんですか? 」 「あなたが騙しといて、何言ってるのよ。こっちはあの家取られたのよ? 」 「取られたのは美里だ。あなたじゃない。 俺も自分のしたこと、棚に上げる気は無い。 でも、再会したこいつを見て俺は驚いた。 叔父を頼れないことは知ってる。 俺だって中高、あいつから、こいつ守って必死だったから。 でも、あなたがいるから大丈夫だろうと思ってたんだ。きっと、あなたの所に行ったんだろうと思ってた。 でも、親族に見放されて、こいつは一人で金を返すのに必死だったんだ。 親戚は資産家なのに、なんでだ? 」 叔母は、責められて涙を浮かべる。この人にも、動けなかった理由があるはずだ。 彼女は涙を拭いて、大きくため息を付いた。 「脅されたのよ、正輝兄に。 美里に手を貸したら、夫の…… マスコミに流すって。 親族みんなだと思うわ、そう言うところ、抜け目のない人だから。 マスコミにって言われると、何握られているのかわからないもの。 美里も成人してるのよ、別荘もあるし、自分で何とかすると思うのも間違いじゃないわ。」 「何言ってるんだ。間違いとかそう言う話じゃないだろう? 負債の金額見れば、あんたたちなら金貸すことだって出来ただろうに!  家だってそうだ。 あいつは路上生活してたんだぞ?! 」 「美里に関わるって言うのは! 正輝兄に関わるって事なのよ。 そんな事になったら、わかるでしょう? あの兄は、聖人の顔した悪魔よ。 だから、美里を見捨てるしか無かったの。 でも、見放せないからコッソリ、NPOに寄付をして保護して貰ったのよ。 家は、家くらいは、世話しても良かったと思ってるわ。」 「おじさんは、きっとあなたたちに託したはずだ。大事な一人息子なのに、誰も味方してくれない。 あんたたちなら、弁護士だって付けてくれたはずだ。全部剥ぎ取られることも無かったろうに。」 「でも…… 駄目ね、何を言ってもいいわけでしかないわ。」 「俺も、……俺も言えたギリじゃ無いんだ。 全てきっかけ作ったのは俺だ。 あんな会社に就職しなければ、俺の最大の黒歴史だ。 美里に何度謝っても足りない。」 みんな、みんな後悔してる。 それでもあいつがいなければ、状況はもっと違ったと思う。 あんな奴、刑務所に入ればいいのに。 俺は、叔母に何が起きたかを話した。出来れば、訴えることに力を貸して欲しい。 でも、身内だけに、やはり乗り気では無さそうだ。 美里の味方は、本当にいない。

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