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第2話
大聖樹の根本には、不思議な台があった。大きめの椅子を後ろに倒したような形で、座面に当たる部分が大きく抉られ、いくつものベルトがあるのが見えた。下には車輪が付いていて、移動させることが可能らしい。
まさか、と思った。これは、巫子を拘束するためのものか。
「こんなものでジェレマイアを縛り付けるつもりか?」
ウィルフレッド殿下が苛立った声を上げた。
大神官が淡々と答える。
「必要なことでございます。万が一、巫子様が暴れては危のうございます」
「しかし……」
「身体の中を作り変えるのですよ? 余計な臓器を傷付けるようなことがあってはいけません。命に関わるのです。ご理解ください」
ウィルフレッド殿下がため息をついた。
「………………わかった」
僕はガウンを剥ぎ取られ、一糸纏わぬ姿でその奇妙な台に寝かされた。足は大きく開かれて、膝を曲げて持ち上げた状態で固定された。
何も隠せやしない。恥ずかしくてウィルフレッド殿下の顔が見られなかった。肩も腕も胸も腹もベルトで固定されていった。
「それはなんだ」
ウィルフレッド殿下の低い声が聞こえた。
「口枷でございます。巫子様が舌を噛んでしまっては大変ですから」
まさかそれは、巫子の自死を防ぐためなのか?
「それは要らない」
「そういうわけにはまいりません」
「要らないと言っている。ジェレマイアは舌を噛んだりしないよ」
「ですが……」
「ではこうしよう。ジェレマイアには私の指を食ませておく」
「えっ?」
何を言っているんだ、この王子様は。
「ジェムは優しいから、私の指を食い千切るようなことはしないだろう?」
呆気に取られてウィルフレッド殿下を見上げれば、穏やかに微笑まれた。
「とにかく、口枷は要らない。片付けてくれ」
結局僕が口枷をされることはなかった。
大聖樹の根を受け入れるには、まだ準備が足りなくて、僕の後孔にはたっぷりと潤滑剤が塗りこまれて、解された。
なんと、ウィルフレッド殿下の指で、だ。恥ずかしくて恥ずかしくて、きつく目を閉じていたけれど、耳を塞ぐことも顔を隠すこともできない。
「ああ……可愛い。可愛いな、ジェム。早く俺のものにしたい……」
ウィルフレッド殿下の熱っぽい呟きまで聞こえてしまって、今更ながら、もしかしてこの方は本当に僕のことが好きなのかと思い至った。
「大聖樹様のご準備を」
大神官の声に恐怖が増す。拘束された僕の手をウィルフレッド殿下が撫でた。
近くで魔力が動き、神官がひとり屈んだのが見えた。それ以上は僕の位置からは何が起きているのかわからなかった。
「それが例の根か」
「さようでございます」
僕にはそれは見えなかった。見ない方がいいのかもしれない。
「思ったよりも細いな。粘液を纏っているのか」
「巫子様のお怪我を防ぎ、負担を減らすためのものです。殿下、そろそろ巫子様から離れていただきませんと……」
「何を言っている? 私はジェレマイアの夫だ。妻の大事に離れていられるか」
「殿下。困ります」
「邪魔はしないさ」
ウィルフレッド殿下は僕のすぐ側に立つと、屈んで囁いた。
「ジェレマイア、口付けても良いだろうか」
「え?」
「いいかい、ジェム。あんなもの、張型と同じだよ。多少動くかもしれないけどね。君を抱くのは俺だ。少しそのための準備が要るだけだ」
「殿下……」
本当に、そんな風に考えても良いのだろうか。
「ウィルと呼んでくれる?」
「はい、ウィル様」
堪えていた涙が溢れた。ウィルフレッド殿下はその涙を舐め取って、唇を重ねてきた。熱くぬめった舌が入り込んでくる。ほんの一瞬だけ涙の味がした。
ウィルフレッド殿下が神官たちに何か合図をしたらしい。人が動く気配がして、後孔に何かが当てられた。
怖い。怖い。怖い。嫌だ。
でも、僕の身体はしっかりと固定されて動けない。ウィルフレッド殿下にしがみつくことすらできない。僕はぼろぼろ泣いて、でも、拒絶の声を上げることはできず、口内を蹂躙されながら、それを受け入れた。
痛みはなかった。でも、異物感が酷い。それは太くはないけれど、腹を突き破られそうで恐ろしかった。僕に快楽を与えることは目的としていないからか、律動することなく、ただじりじりと奥に入ってくる。
頬に触れていたウィルフレッド殿下の手が、僕の下腹部に伸ばされ、そこで縮こまっていた欲の中心を掴んだ。
嫌だやめてと抗議しようにも、口は塞がれたままだ。ゆるゆると擦られると思いの外気持ち良くて、嬌声を上げる代わりに喉が鳴った。
流石に息が苦しくなってきて、顔を離そうとした。首から上は動かせる。でも、押さえ付けられてしまった。ウィルフレッド殿下の舌を甘噛みして、ようやく唇が開放された。
すっかり息が上がって整わない。僕のペニスをいじめるウィルフレッド殿下の手も止めてもらえなかった。腹の中はやけに熱く、気付けば全身に汗をかいている。
「あっ、ふぅ、んん、ウィル、さま……」
「いい子だ。そのまま感じていて」
「ひあ、ぁあッ」
汗ばんでいるというのに、ウィルフレッド殿下が僕の首筋を舐め上げた。そのまま耳殻を噛まれてびくびく震える。身を捩ることも、声を抑えることもままならない。神官たちに見られているのに、こんなこと。
僕は喘ぎ、ぼろぼろ泣いて、ウィルフレッド殿下を呼び、その手の中に白いものを吐き出した。
「可愛いね、ジェム。愛してるよ」
「は、あぁ、ウィル様……」
再び深く口付けられる。蕩けてしまいそうなくらい気持ちいい……
腹は熱いし、異物感はある。僕はなるべくキスに集中した。ウィルフレッド殿下の手が、僕の官能を引き出すように全身を撫で回していく。
胸の尖りにも触れられて、むずむずともどかしいような感覚に戸惑う。硬くなっているのが恥ずかしい。
必死に息をして、混ざり合った唾液を飲み下す。気持ち良くて、でも苦しくて、怖くて、泣きっぱなしだ。腕が動かないのが辛い。ウィルフレッド殿下に抱きつきたいと強く思った。
ふいに腹の中で何かが脈動し、ぞくりと身体が震えた。大聖樹の根がゆっくりと引き出されていく。終わったのか。僕は種を産むものになったのか。何か変わったようには思えないけど。とにかくこれで開放されるのだとホッとした。
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