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第3話
ずる、と大聖樹の根が僕の中から出ていった。僕は安堵で更に泣いた。だけど、安心するのは早かったらしい。身体が火照って治まらない。切なくて苦しくて……足りない。
「殿下……ウィル様……」
欲しい。僕を満たしてくれる熱が。僕は一体どんな顔をしていたのだろう。ウィルフレッド殿下の喉がごくりと動いたのがわかった。
僕の頬に額に鼻の頭に、ちゅ、ちゅ、と口付けて、ウィルフレッド殿下は大神官を呼んだ。
ベルトが外されると、僕の腹には双葉とそれを囲む蔓草のような、丸い模様が浮かび上がっていた。
「……確かに見届けました。新たな聖樹の巫子の誕生をお喜び申し上げます」
大神官が厳かに告げた。模様のすぐ近くに吐き出した白濁の名残りがあったし、勃起していたから、ものすごく恥ずかしかった。
拘束が外されていく間も、熱くて切なくて苦しくて、欲しくて欲しくて仕方がなかった。これが巫子の発情か。媚薬を盛られたらこんな感じなのかもしれない。
開放されてすぐ、僕はウィルフレッド殿下に抱きついた。
「ウィル様……苦しい。熱くて……」
「少し待って。ここじゃ嫌だ」
「あッ」
背中を撫でられて嬌声を上げた。耳元でくすりと笑う気配がした。
「歩けそうにないね。ベッドまで私に運ばせてくれる?」
僕はこくこく頷いた。
「交接の儀は無事に済んだということで良いんだな?」
「はい」
「ならばここからは私の時間だ」
ウィルフレッド殿下の手が一度離れて、僕はガウンで包まれた。そのまま横抱きにされて運ばれた。魔力が動いた気配は身体強化か。成人した男をひとりで運ぼうというのだから無理もない。
この日のために用意された寝台にそっと下ろされた。手早く服を脱ぎ捨てたウィルフレッド殿下が覆いかぶさってくる。
「ぁ……」
素肌が触れ合うだけで、こんなに気持ちいいなんて。胸を押される重さも心地良くて、でも、足りない。
「ウィルフレッドさま……」
首筋を吸われ、鎖骨の上を舐められて、それは確かに気持ちいい。気持ちいいけど、違う。僕はもどかしさに腰を揺らした。
「ウィル様、僕……もう、あぁ……」
ウィルフレッド殿下は今まで見たことがないような、ぎらぎらした目で微笑んだ。
「可愛いなぁ。そんなに俺が欲しいの?」
僕がこくんと頷くと、ウィルフレッド殿下の指が後孔に触れた。
「へぇ……聖樹の巫子はここが濡れるって話は聞いていたけど」
ウィルフレッド殿下の唇が弧を描く。
「すっごいぬるぬる……本当に欲しいんだね」
「……言わないで……」
ウィルフレッド殿下の指が僕の中に入り込んできた。
痛みはなくても異物感が消えない。じんわりと気持ちいい気もするけど、まだ感じるのは難しいみたいだ。なのに欲しくて仕方がない。
指が増やされ、確かめるみたいに中を探られる。いやらしく湿った音がして、羞恥を煽られた。
「あ、あぁ……ゆび、もう、いぃ……からぁ」
僕はほとんど泣きながら、早く挿れてくれと懇願した。
待ちかねた熱の塊が押し当てられる。昼頃までは慎ましやかに閉じていたはずの場所を目一杯押し広げられる。苦しい、ちょっと怖い、でもそれ以上に気持ちいい。繋がれることが嬉しい。
「あぁ……ジェレマイア。ずっと、ずっとこうしたかった」
「ウィル様……は、ぁん、ああっ」
必死に受け入れ、しがみつく。ウィルフレッド殿下はじれったいくらいゆっくりと腰を進めた。
挿入してしばらく、ウィルフレッド殿下はじっと動かなかった。僕を気遣ってくれているのはわかる。でも、それがもどかしくて苦しい。
「でんか……」
もう無理。おかしくなりそう。
「おねがい、動いて。も、だめ……はぁ」
「ジェム……あまり、締めるな」
ギリギリまで引き抜かれて、一気にガツンと突き上げられた。
「あぁあっ」
さっきまでの鈍い快感はどこへやら。乱暴なくらいに貪られて、あられもなく喘いだ。背中が勝手に反り返る。気持ちいい……もう何も考えられなくなりそうだ。
結合部からウィルフレッド殿下の魔力が流れ込んでくる。乾きにも似た何かが和らいでいく。
「あ……魔力、気持ち、ぃ……」
「ああ。気持ちいいな。もっとあげるからね」
ウィルフレッド殿下の魔力に、与えられる快楽に、翻弄されて、喘いで、もっともっとと強請って腰を揺らす。
「はぁ、あ、奥、おく、好き……」
ウィルフレッド殿下の前髪が汗で額に張り付いている。色っぽい表情に見惚れ、首に腕を回す。腹筋にペニスが擦れるのも堪らなかった。
「ウィル様、ああッ、や、ぁあ」
何かがせり上がってくる。身体がぎゅうっと強張って、力が抜けない。
「あぁ、なんか……きちゃう、こわい……」
「大丈夫。怖くない、怖くない」
宥めるように頭を撫でられた。そのまま揺さぶられて、快感が背筋を突き抜けた。
「あ、ああっ、や、あぁあッ」
太ももが、腹が、全身が痙攣する。気持ち良くて涙が止まらない。熱いものが腹を濡らした。
必死に呼吸を整える。切なさと幸福感が胸を満たして溢れ出した。
「ウィル、さま……好きです、あぁ、好き」
「俺も。愛してるよ」
「あっ、待って、あ、あ、ひぁ……」
過敏になった身体を突き上げられる。ウィルフレッド殿下の魔力が僕の中で弾けた。それが熱となって全身を巡り、また腹に集まってくる。
僕の中に作られたばかりの子宮にも似た器官が、その魔力を喜んでいるのがわかった。ああ、これで僕は聖樹の種を産むことになるのだろう。
ウィルフレッド殿下の頭を抱き寄せて、くったりと脱力した。肩に口付けられながら余韻に浸る。
「ジェム、俺には君だけだ」
「はい、殿下……」
「君も俺だけにしてくれ」
「……良いのでしょうか」
僕は聖樹の巫子だ。今までの巫子たちは複数の相手と肌を重ねてきたのだ。
「君が必要とする魔力は全て俺が提供する。他の男に君を抱かせるものか」
「殿下……」
涙が滲んだ。それができるなら。普通の夫婦のように、この方と過ごせるなら。
「僕にも、あなただけです。ウィル様。あなたの唯一になりたい」
受け入れたままだったものが硬さを取り戻し、僕はそのままもう一度抱かれた。俯せにされて後ろからも一度。
ウィルフレッド殿下はまだ足りないみたいだったけど、僕は酷く疲れていた。最後にはもう無理と泣いて、意識を手放した。
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