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第4話
「お言葉に甘えて、また図々しく電話してしまいました」
「いや、嬉しいよ。たまたま今日も一人なのでね」
そんなことは重々承知しているが、知らないふりをする。
「そうなのですか?桐野さんのご家族は……?」
さて、この質問にはどう答えるのだろうか。
「ん?嫁さんと可愛い娘が一人いるよ」
「娘さんですか、きっといいお父さんなのでしょうね。僕には親がいませんから、想像がつきませんけれど」
嘘じゃない、詐欺まがいの仕事をしているが本当の事も話している。全てが嘘である必要はないのだ、家族がいないのもホーム出身というのも本当だ。
「そうか、それは寂しいな」
「いいえ、桐野さんのような人が僕の父親だったらいいなと思います」
「君の様な子がいたら親御さんも自慢の息子だったろう」
自慢の息子?人を騙すことを生業にしているこんな息子を誰が自慢とするのかと苦笑する。
「いいえ、桐野さんこそ自慢のお父さんですよね」
「いや、実際に会えば単なるつまらない大人だよ」
「そうなのですか、お会いしたいですね」
「ん?」
「あ、すみません。ご迷惑ですよね、つい図々しいことを。そもそも僕が住んでいるのは東京の郊外ですし、会いに行ける距離かどうかも分かりませんし」
「君が住んでいるのは東京郊外なのか?」
ええ、あなたの家から電車で一時間弱、絶妙な距離の設定のはず。
「もしかして都内にお住まいなのですか?ああ、こんなこと聞いては迷惑ですよね」
あくまで控え目に、あくまでそちらから誘ってもらう。それが大切。
「いや、そうなのか。明日は何か予定があるのかな?」
よし、かかった。
これで直にこの仕事は終わりになるだろう。一度会ってしまえば、その先へ誘う方法はいくらでもある。意外と簡単に落とせるかもしれない。スムーズに事が運びすぎていて、気持ち悪いくらいだ。
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