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第8話
「亮也君じゃないか、どうしてここに?いつから働いているんだ?鉄工所勤務だとばかり」
「いえ、あの」
「都内の鉄鋼所に片っ端から電話を入れたけれど、どこにも君はいないし。どうしたのかと心配したんだよ」
「すみません」
「電話もつながらなくなって、探そうにもどこにいるのか見当もつかなくて、良かった。本当に良かった」
「連絡もできなくて、すみません」
謝ることしかできない。責めることもなく心配したよと嬉しそうに微笑むその姿を見て心が震えた。
これが「正解」だったんだと。
もうこのまま会うわけにはいかないと考えたあの日から、長い道のりだった。
探偵事務所に今後は仕事の紹介は要らないと申し出た、その時たまたま紹介されたコーヒーショップが桐野の会社の沿線だった。ここでアルバイトとして働くようになったのはひと月前の事。
「いや私も忙しかったからね、いろいろあって独り身に戻ることになって、少し落ち着かない日々を過ごしていたから、でもこんなところで会えるなんて驚いたよ」
ああ、あなたは知らない、ここで毎日見つめていたことを。何時にここを通るのか、ここひと月調べつくした。そして一番のタイミングで現れるのを釣り糸を垂れて待っていた。
だから本当の偶然じゃない、それでも会えたことが運命だと信じて欲しい。
「桐野さん、僕あなたに言わなくてはいけないことがあるんです。もうすぐ仕事終わります。待ってて頂けますか?」
あの日から電話で何度か話をした、何が桐野の望みなのか、自分が付け入る隙があるのだろうかと探りつつ。会いたいと思う反面、自分の過去が重くのしかかるという青年を演じて。
……そして携帯の電源を落として眠るようになった。そして朝、桐野からの着信を確認して安心する。そんな日が続いた。それから二週間、携帯を解約した。もう一度会いたいと思う相手と偶然出会う、それが必然だった。
「桐野さん、本当は僕は……」
「何も言わなくていいよ」
「え?」
「別に何も聞かなくていい。会えたじゃないか、きっとこれが運命なんだよ、それだけでいいんだ」
優しく微笑み、触れてくれる。ようやくやっと手に入れた。やっとこれで明日から食べるものの心配も、眠る場所を探すこともなく生きていける。
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