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第9話
ようやく見つけたその青年は、涙しながら話さなくてはならないことがあると言う。
「私と一緒に来なさい、落ち着いて食事でもしよう」
何も言わなくて良いからと手を取り、自宅へと連れて帰った。
そしてその夜、誘われるがままに肌を重ねた。その縋るような瞳に劣情を煽られた。自分の中に醜悪なまでの征服欲がある事を知った。
薄明るい部屋で二人だけの甘く溶けるような時を過ごす。この熱が髪の毛の一本一本にまで染み入るように大切に優しく。それでいて激しく。引き取ってきてから自分を卑下していた青年は蛹が蝶になるように見事に羽化した。
昼は太陽の下で花のように笑い、誰からも愛される美しい若者になった。誰もが愛されるべき存在だと教えてやれる。歩くことをまだ知らなかった子どもの手を取り、走り、跳ぶことを教えるように。今は自分の庇護のもと、輝かせてやれる。
過去は過去、未来だけを見て生きていけばいい。そう、誰しも皆。
「おはよう、亮也」
「おはようございます、桐野さん」
「ん?桐野は君の名前でもあるんだが?呼び方をそろそろ変えてくれないかな」
「む、無理です。あとしばらくは……」
「そうやって照れているのも可愛いがね」
「やめて下さい。本当に顔から火が出そうです」
「君を養子として引き取りたいんだ。諦めたという高校にも行きなさい」そう伝えた時のあの嬉しそうな顔は忘れられない。
少しだけいびつな形だが、互いを必要とする相手と築く新しい家庭。愛する人と、可愛い娘、これが自分が守るべき全てだ。若い恋人との刺激的な日々、そして愛する娘との穏やかな時間。
亮也は与えられる愛情を余すところなく受け取ってくれる、まるで枯れた土地に降り注ぐ雨のように。
「お兄ちゃん、パパ、どっちでもいいからお腹空いた」
寝室のドアを勢いよく開けて、愛美 が入ってきた。
「ごめん、ごめん。今準備するよ。お兄ちゃんは今朝は少し起きるのがつらいようだから」
そう言うと赤くなった亮也の顔をするりと撫で、立ち上がった。
「今日の夜はマナがお兄ちゃんと寝る!」
「それだとパパが寂しいな。よし、今日は三人で寝ようか」
「そうする!」
笑う愛しい人たちに、胸が躍る。
「あ!そうだ。はい、これ郵便!」
愛美が自分の仕事をしてきましたとでも言うように、得意そうに渡した郵便物の束の中に茶色い差出人のない封筒があった。それを手に取ると、亮也と愛美の頭の撫でて仕事の電話をしてくるからと寝室を後にした。
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