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第7話

近頃は晴天と雨天が交互に訪れる。都築と景は待望の雨の週に待ち合わせをして、東北を少しずつ回って行った。 地元の住人に龍の伝承がないか訊いて、山の奥深い場所へ行って、海沿いも回った。宮城の龍神神社も訪れたし、岩手の龍穴が有名なお堂にも寄った。 確かにこれまでとはレベルの違う気を肌で感じたが、前世で感じていた気とは違った。 成果はない。それはもう、清々しいまでに。 山道の運転中、都築はそれとなく隣の景を見た。 彼はただ静かに前を見ている。いつものことながら会話はなく、ひたすらに目的の滝を目指す。 しかしこれは今回の目的地に過ぎず、最終地点はまだ見つかっていない。 一体いつになったら見つかるのか。いつまでこんなことを続けられるのか。 澄んだ泉の水底に、黒い根が張っていく。 怖い。この旅の終わりを考えることが。 急に左胸が痛くなって、ハンドルを強く握り締めた。 「都築。左に寄り過ぎてる」 「はっ!」 突然話しかけられて、思わずアクセルから足を離してしまった。坂道を登っていた為減速する。やはり周りに車がいない為事なきを得たが、慌ててアクセルを踏んだ。 「すみません、考え事してて……」 左は側溝がある為、タイヤを取られたら大変だ。しかし一度生まれた動揺は中々収まらず、今度はスピードを出せなくなった。 とは言え、いつもの景さんならウンともスンとも言わないことだ。もっと危険な時なら何度もあったし、まるで反応しなかった。ところが、彼は低い声で告げた。 「そこの路肩に停めろ。代わる」 感情の読めない、深い水底。十数センチ先すら見えないような、そんな心境だった。 「だ、大丈夫ですよ。疲れてるわけじゃないし」 何故かこの時は、俺も意固地になっていた。これも冷静に考えたら有り得ないことだ。車の持ち主が停まれと言ってるのに、停まらないなんて。 ……なにか大きな焦りに突き動かされて、止まれずにいる。 雨粒が落ちる木々の中を突き進んだとき、ハンドルを握る手の上に彼の手が重なった。

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