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第11話

雨? 夜中に降ったのか? でも寝る前は星空だったしな。んん……? ひとりで首を傾げていると、景さんは俺の腰に視線を落とした。 「痛みはどう」 「あ、もう全っ然ありません。ご心配おかけしました」 あまり深刻に答えると逆に良くないかと思い、平謝りして微笑む。すると彼はホッとしたように笑った。 「良かった」 「……っ」 滅多に笑わない彼の、貴重な笑顔。 眼鏡を外しているから尚さら印象的で、朝から狼狽えた。 胸が高鳴っている。 何これ……。 両の頬を叩き、謎の感情を振るい落とす。ドアを開けて足を地に下ろした。 「景さん。今日も良い天気ですよ」 「……良い具合に曇ってるな」 「えぇ。主様を捜すには最高の天気。張り切っていきましょ!」 凄まじいローテンションの彼とは対称的に、都築は外に出て空を仰いだ。タオルと歯ブラシを用意し、親指で後ろを指し示す。 「さ、顔洗いに行きましょう」 「そうだな」 近くのキャンプ客と挨拶を交わし、水道の方へ向かう。 砂利道に足を取られながら、無事不思議な一日が始まった。 「顎が外れそ……っ」 りんご飴を食べながら、目的の滝へ向かう。景は駐車場に到着した後カッターナイフを取り出し、りんご飴を均等に切って都築に渡した。 そうして訪れた滝はそれこそ龍のように立派な瀑布だったが、感知できるものは何もなかった。 「……何してんだ」 「せめてマイナスイオンをいっぱい体内に取り入れておこうと思って」 全力で深呼吸しながら滝に向かって深々とお辞儀する。他の観光客に奇異な目で見られたが、仕方ないということにした。 滝から飛んでくるわずかな飛沫が気持ちいい。どうせぬれるなら雨でも構わないと思える。 いや、雨でないと困るのだ。都築は頬に伝った雫を袖で拭い、鉛色の空を見上げた。 「そういえば、俺達が出逢ったのも滝でしたね」 整備された階段を上り、駐車場へ戻る。折り畳み傘を閉じて、景の方へ振り返った。 「景さんも、あの頃滝を回っていたんですもんね。主様を見つける為に」 「……」 問い掛けると、彼は視線を逸らした。 しかしすぐにこちらを向いて、淡々と答える。 「まぁな」

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