16 / 62
第16話
翌日も曇りのち雨。ホテルを出た景と都築は、ややハイペースで東京へ向かった。埼玉までは非常に順調だったが、予想外のトラブルに都築は震えた。
「はっくしょん!」
「……」
「はっ……」
「……都築」
「……はっくしょん!」
「風邪か?」
日も暮れて、無事に東京に入った頃、疑念は確信に変わった。
凄まじい悪寒とくしゃみに支配され、都築はハンドルを握り締めた。
「次のサービスエリアで交代するぞ」
「はい……」
昨日薄着で寝たことが原因だろう。体は冷え、完全に体調を崩してしまった。
「少し熱いな」
額を触られる。冷たくて気持ちよかったが、身体の寒気は別だ。運転を代わって高速を抜けた後もくしゃみは止まらず、都築はダウンした。
「ごめんなさい、景さん。適当に下ろしてください」
「適当に下ろしたら絶対行き倒れるだろ」
「でも、風邪うつしちゃったらまずいので」
それだけは避けたい。コンビニで買ったマスクをつけて呟くと、優しく頭を撫でられた。
「家には誰もいないんだよな?」
落着した問いかけに頷く。すると景さんは、「わかった」と言って座り直した。
「看病する人間がいないなら、俺の家に行くぞ」
は。
朦朧としていた意識は、一瞬で鮮明になった。驚き過ぎて咳き込むほどに。
「なっ……駄目ですよ! 景さんまで風邪ひいちゃうから!」
「問題ない。俺は休もうと思えば休める」
「いやいや、これ以上迷惑かけられません」
「このままお前を家に帰しても、落ち着かなくて仕事にならない」
彼の意志は固そうだ。もう俺の家とは反対方向に走り始めている。
けど今度は申し訳なくて倒れそうだ。せっかく昨日は気持ちを打ち明けられたのに、早速厄介になるなんて。
困惑が伝わったのか、額を指先で押されてしまった。
「寝てな。すぐに着くから」
ともだちにシェアしよう!

