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第16話

翌日も曇りのち雨。ホテルを出た景と都築は、ややハイペースで東京へ向かった。埼玉までは非常に順調だったが、予想外のトラブルに都築は震えた。 「はっくしょん!」 「……」 「はっ……」 「……都築」 「……はっくしょん!」 「風邪か?」 日も暮れて、無事に東京に入った頃、疑念は確信に変わった。 凄まじい悪寒とくしゃみに支配され、都築はハンドルを握り締めた。 「次のサービスエリアで交代するぞ」 「はい……」 昨日薄着で寝たことが原因だろう。体は冷え、完全に体調を崩してしまった。 「少し熱いな」 額を触られる。冷たくて気持ちよかったが、身体の寒気は別だ。運転を代わって高速を抜けた後もくしゃみは止まらず、都築はダウンした。 「ごめんなさい、景さん。適当に下ろしてください」 「適当に下ろしたら絶対行き倒れるだろ」 「でも、風邪うつしちゃったらまずいので」 それだけは避けたい。コンビニで買ったマスクをつけて呟くと、優しく頭を撫でられた。 「家には誰もいないんだよな?」 落着した問いかけに頷く。すると景さんは、「わかった」と言って座り直した。 「看病する人間がいないなら、俺の家に行くぞ」 は。 朦朧としていた意識は、一瞬で鮮明になった。驚き過ぎて咳き込むほどに。 「なっ……駄目ですよ! 景さんまで風邪ひいちゃうから!」 「問題ない。俺は休もうと思えば休める」 「いやいや、これ以上迷惑かけられません」 「このままお前を家に帰しても、落ち着かなくて仕事にならない」 彼の意志は固そうだ。もう俺の家とは反対方向に走り始めている。 けど今度は申し訳なくて倒れそうだ。せっかく昨日は気持ちを打ち明けられたのに、早速厄介になるなんて。 困惑が伝わったのか、額を指先で押されてしまった。 「寝てな。すぐに着くから」

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