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第17話
夜も深まった頃、連れてこられたのは八階建てのマンション。
景さんの部屋は五階で、窓からの見晴らしが良かった。今朝まで東北にいたから感覚がバグってしまうけど、本来は緊張する場面だろう。
だって、これが初めての訪問だから。
景さんの大体の住所すら知らないのに、突如部屋にお邪魔した。その非現実さについていけない。
リビングで佇んでいると、腕を掴まれ寝室に連れていかれた。
「熱計るぞ」
「ありがとうございます」
慌てて上着を脱ぎ、前をはだける。景さんは若干目を細め、温度計を差し出した。
「水持ってくる」
「景さん、ほんとお気遣い」
なく、と言う前に彼は部屋を出て行った。
「…………」
何この状況。
改めて冷や汗が出る。風邪の症状というより、ほぼ緊張によるものだと思う。
白を基調とした、家具の少ない寝室。片付いてるけどデスクの上には難しそうな本が積まれていて、かろうじてノートパソコンだけ置ける状態だった。
おお。景さんの匂いがする。
ちょっと変態っぽいけど、瞼を閉じて息を吸った。
昨夜は景さんに何度も“好き”と言った。彼もそれに頷いてくれて。
あれ。これって、もう付き合ってる……のか?
熱に浮かされた頭ではまるで処理できない。嫌な汗を流しながら、上着の裾を握り締めた。
「……ほら」
彼は水とスポーツドリンクを持ってきてくれた。礼を言い、飲んでる途中で体温計が鳴った。そっと服の下から取り出す。
「三十八度ぴったり。でも、身体はさっきより怠くないです」
「一晩寝れば回復するかもな。解熱剤があるから一応飲んで寝な」
彼が用意してくれた薬を飲み、ベッドに寝かせられる。
「いや、これだと景さんの眠る場所がなくなります。俺は床でいいです」
「俺は向こうのソファで寝るから大丈夫」
「でも……」
「ベッドで寝なくちゃ、何のために連れてきたか分からないだろ?」
景さんは腰に手を当て、薄く笑った。
「それとも寝るまで傍についてようか」
「もう……子どもじゃないって」
頬を膨らますと、彼は楽しそうにライトを消し、ベッドに腰を下ろした。
「辛い時は誰かに頼れ。俺はもちろん、この時代なら誰かしらが振り返ってくれる」
「……」
目を細めて囁く彼は、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。
「はい」
枕に頭を乗せ、意味もなく彼に手を伸ばす。頭がボーッとしてるのは間違いなかった。
景さんは俺の手をとり、甲に口付けする。
……昔もこんなことをされた気がする。現世じゃないから、多分、前世で。
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