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第27話

ドアに押し当てられ、彼を見上げる。 やっぱり、俺にとっては景さんの存在そのものが反則だ。 今まで生きてて求められたいと思ったことは一度もないのに……彼から与えられる熱は、俺の“今まで”をことごとく溶かしてしまう。 もう駄目だ。 ベランダでできなかった続きに焦がれ、ドアに手をつく彼に助けを求めた。 「景さん」 「何」 「あのですね。その……ええと……」 羞恥心から何度も言い淀む。しかしこれ以上待たせてもいけないと、彼の目を見て言った。 「キスしたい。です」 「……!」 不安や緊張、その他諸々を強引に押しとどめ、思い切った。顔から火が出そうなほど恥ずかしかったけど、景さんは驚くこともなく、にやっと笑った。 「駄目ですか?」 「まさか」 両手を繋ぎ合わせ、彼は唇を塞いできた。熱い舌がさしこまれる。それは深く深く、俺の中を暴くかのような動きをした。 息を奪われ、苦しさのあまり彼の背中に手を回し、縋り付く。 熱い。頭の中もとけそうで、何も考えられない。 「景さん……とけちゃう……っ」 「……っ」 腰をしっかり支えられているものの、脚の力が抜けてがくがくと震えた。 キスだけでこんなになるの、おかしいって思われるかな。 不安なまま、涙を浮かべながら彼を見る。崩れ落ちそうな脚の間に片膝を入れられ、座るような形になった。 「あんまり煽ると後悔するぞ」 「……だって……っ」 口元を手で隠しながら、肩で息をする。 全身が熱い。このまま何もされなかったら、それはそれでどうにかなってしまいそうだ。 「大好きなんです……景さんになら……何されてもいい……!」 「……だから……っ!」 景さんは額を押さえ、これまでにないほど顔を赤くした。瞼を伏せ、片膝を下ろす。 支えを失い、俺はずるずると下に落ちた。玄関だと言うのに、彼も構わず冷たいタイルに膝をつく。 そして、怒ってるのか照れてるのか分からない表情で告げた。 「めちゃくちゃにしたくなるから、マジでやめろ」 「ふええ……」 こちらとしてもどうしたらいいか分からない要求だ。 ただ想いを打ち明けてるだけなんだけど、景さんも苦しそうに呼吸している。 「本当は二十四時間触れていたい」 今まで触れられなかった時間を埋めるように。 景さんは潤んだ瞳で零した後、俺を抱き締めた。 「頼むから、自分を犠牲にしようとしないでくれ。もう耐えられないんだ。……お前を失うのは」 「景さん……」 熱い息が、徐々に胸を温めてゆく。 景さんは俯き、俺の胸に顔をうずめた。 遠い別れを思い出しそうになって、唇を噛み締める。彼の痛みが自分の胸をも貫いたようだった。 でも昔とは違う。俺は今の人生を……再び与えられた命を、大切につかうんだ。 首を横に振り、彼を強く抱き締める。 「約束します。もう絶対、貴方をひとりにしない」 気が遠くなりそうな月日を必死に耐え抜き、待ち続けた。 肉体の時間は有限。だが魂だけのときは無限だった。 何もできず、ただ浮遊するだけの時間を過ごした。 決して忘れはしないだろう。でも、またあの光に包まれるまでは……絶対に彼の傍にいる。 景さんは、赤くなった目でまばたきした。いつもと全然違い、幼い印象を受ける。 はえ~。可愛い。 思わず見とれていると、優しく頬をつねられた。 「可愛い」 「……」 それ、今俺が貴方に思ったことなんですけど。と言いたいのをぐっと飲み込み、彼の額に自分の額をつけた。 「そのうちかっこよくなるから安心してください」 「……今世ではどうかな」 「あと十年もしたら、絶対渋い大人になります!」 宣言すると、彼は可笑しそうに口を手で覆った。 大人二人が玄関に座り込んで、くだらないことで笑い合ってる。 うん。 しょうもないけど、やっぱり俺は幸せだ。

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