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第28話
「え! ちゃんと告白したわけじゃないの!?」
「わ。声大きいって、日々野」
平日、晴天。
都築はバイト先で、同僚の青年、日々野に慌てて振り返った。
昼は楽器屋、夜は居酒屋でバイトをしている都築は、両方とも親友がいる。楽器屋では、同い年で現役大学生の日々野と一番仲がいい。
プライベートで遊ぶには互いに時間がないのだが、仕事終わりに飲んだりはしている。今回は初の恋愛相談をしたのだが、想像以上に驚いていた。
「大体、“そういう”相手って何だよ。悪いけど、俺には下の話にしか聞こえないぜ」
「それは日々野の心がいやしいからじゃ……」
「いやいや、付き合うなら普通に付き合おう、って言えよ。そこ有耶無耶にしてると、後で自分だけ勘違いしてました~パターンで泣くことになるぞ」
床のモップがけを終え、日々野は片手をかざした。
お客さんがいない上、店長が留守なのを良いことに、掃除しながらだべってしまっている。
ちなみに、日々野には俺が好きな相手が男ということは隠している。だから男気見せろ!とお前がリードしろ!とめちゃくちゃ燃えている。
「仕切り直しだな、名田。今度デートに誘ってしっかりプロポーズしろ」
「え!? デート!?」
「お前も声でかっ……! にしても、反応がウブ過ぎんだよなぁ。お前の良いとこだけど」
日々野はけらけら笑い、それからスマホを弄り出した。
「彼女できたことないんだよな? 心配だから、俺がデートにぴったりなプランをいくつかピックアップしといてやるよ」
「ほんと? ありがとう……」
素直に礼を言ったものの、情報不足だったことに気付いて片手をかざす。
「そうだ……日比野、実は相手歳上なんだ。後、わりとローテンションで」
「へぇ。テーマパークとか思ったけど、そんじゃ無難なプランのが良さそうだな。映画観てぶらっと買い物して、夜景が綺麗なレストランがベターだ」
「……喜ぶかな?」
「喜ばなかったら、そもそもお前は相手にされてないってことだ。諦めろ」
日比野は淡々と答え、スマホの送信ボタンを押す。
それまで浮かべていた笑顔を消し、真剣な声音になった。
「でも当日上手くいくかは、お前のセンスにかかってる。頑張れよ」
上手くいったら今度奢ってくれ、と言って日々野は掃除用具を戻しに行った。
「センス……」
なんてプレッシャーのかかるワードだ。
急激に緊張してきて、夜のまかないはあまり喉を通らなかった。
「名田くん、今日あまり食べてないね。さては二日酔いだな?」
居酒屋の先輩で、年はひとつ上の梅野という女性が心配そうに声を掛けてきた。ここでは彼女と一番親しく、気の置けない仲だ。かくかくしかじか事情を話すと、彼女は目を輝かせながら手を叩いた。
「え~! 名田くんが惚れた女の人とか気になる~! 写真ないの?」
「すみません、写真はないですね」
男で見せられないから。という前に、本当に写真がない。
遊びで旅してるわけじゃないから、景さんとツーショットしたことがなかった。
うう、写真一緒に撮ってみたいなぁ。
「思いきってデートに誘って、正式にカップルになれるよう頑張ります。友達からはちょっと良いレストラン予約するように言われたので、色々探さないと」
「ふんふん。良いね~。じゃあ最後に、先輩からもひとつアドバイスしよう」
「……?」
梅野さんのアドバイスを聞き、自分なりのデートプランを練る。
不安だったり恥ずかしかったり、まさかこんなことで頭を悩ませる日が来るとは思わなかった。
恋愛経験ゼロとはいえ、周りの恋愛相談はそれなりに聴いてきた。落ち着いてステップを踏めば、そこまで事故ることはないはずだ。
でも景さんも俺並に規格外なひとだからな。何で喜ぶかは、正直予想がつかない。
夜の静かなカフェに寄り、タブレットにデート当日のスケジュールを入力する。それを見てたら、改めて大変はプロジェクトを実行しようとしてる気がした。
主様の捜索スケジュールを立てる時は真剣に、無我夢中で作業できるんだけど……今は俺の男としてのセンスを問われてるようでドキドキする。
日々野が言ってたことは間違いない。俺は絶対、ひとりで浮かれてる。
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