31 / 62
第31話
「わ~! すごく高い!」
鑑賞後、俺は景さんとタワーの最上階を歩いた。
「これが日本一高いタワー……街がジオラマみたいです」
「だな」
手すりを掴み、東京の街を見渡す。全方位に大窓が連なっている為、非常に壮観だ。
そのとき後ろに小さな男の子がやって来たが、人が多くて窓を見ることができずにいた。
俺がどこうとすると、景さんが代わりに移動し、男の子の背中を押してあげた。
「ありがとー!」
男の子は手すりを掴み、持ってたトイカメラで景色を撮る。
「ありがとうございます、景さん」
「俺は後ろでも余裕で見えるからな」
確かに、子どもや女性なら全く問題ないだろう。それでもやっぱり、景さんは優しい。
思えば旅の間も、困ってる人の話を聴きに行くことが多かった。そういうところも密かに尊敬している。
「飛行機があることが既に凄いけど。まさかこんな高い場所に人間が到達するなんてな」
「ですね。いつか天に届いちゃうかもしれませんね」
笑って言うと、景さんは静かに頷いた。
「もう何百年かしたら……それに近い位置まで行けるのかもな」
彼の言葉を聞いて、胸が熱くなった。
俺達はいつも戸惑っている。人の進化と、技術の進歩を。
「もしまた来世があるなら、一緒に行きましょうね」
「二度あることは三度ある。かもしれないしな」
顔を見合わせ、二人で笑う。
そうだ。
俺は、こういう他愛ないことで彼と笑いたかったんだ。
主様。俺はやっと、この時代に生まれて良かったと思えてます。
その後はプラン通りに水族館へ行き、スタッフさんにお願いして景さんと写真を撮った。
「えへへ。やった~」
嬉し過ぎて記念写真を買ってしまった。意外にも、景さんも同じものを買っていた。
「これで、今日のことは絶対忘れません」
「……そうだな」
彼は大事にポーチに仕舞い、微笑む。
「忘れられないよ」
「……景さん」
彼の笑顔はどこか哀愁を帯びていて、綺麗だけど胸がぎゅっとなる。
また、心から笑った顔を見たい。
彼を笑わせるのは、俺の使命でもある。
「景さん、お腹空いてきました? そろそろ時間なので、俺が予約したお店で……ディナーにしましょ!」
「お前がディナーって言うと最高に違和感あるな」
「なっ! お、俺だって一応立派な大人ですよ!」
「わかったわかった。店選んでくれてありがとう」
彼はくく、と笑い、先を歩いた。
く……やっぱ子ども扱いされてる。今夜は大人らしく振舞おうと思ったのに。
いや待て、本番はこれからだ。この後の食事で決めてみせる。
都築は咳払いし、スマホのナビを頼りに目的のビルへ向かった。しかし六つあるエレベーターの前で立ち尽くす。
「二十四階に止まるエレベーターはどれですか?」
「これだな」
景さんのおかげで無事にレストランに入店した。
窓際席をしっかり押さえ、夜景を楽しみながら、早速白ワインで乾杯する。
「随分背伸びしたな」
「うっ。……そんなことありません。この店有名ですし」
目が泳ぎそうになったが、ワインを楽しんでるふりをして誤魔化した。
今夜は俺が持つことになってる。実際一ヶ月分の食費になるけど、今まで彼に出してもらった分を思えば安いものだ。
「景さん、今日は本当にありがとうございました。すごく楽しかったです」
「こちらこそ。最後にこんなサプライズを用意してくれてるとは思わなかったよ」
さっきの仕返しではないけど、景さんの口からサプライズなんてワードが出るとは。
若干面食らいながら、鯛のポワレを慎重に切る。
……もしかすると、もう酔ってるのかもしれない。彼はお酒が入るとよりフランクになるから。
「それでですね。単刀直入に言ってもいいですか?」
「夜まで過ごして単刀直入ってのも妙だが……」
景さんの鋭いツッコミは一旦スルーさせていただき、ナイフとフォークを置く。
周囲にお客さんがいないことを確認し、息を吸った。
「俺は景さんが好きです」
ともだちにシェアしよう!

