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第31話

「わ~! すごく高い!」 鑑賞後、俺は景さんとタワーの最上階を歩いた。 「これが日本一高いタワー……街がジオラマみたいです」 「だな」 手すりを掴み、東京の街を見渡す。全方位に大窓が連なっている為、非常に壮観だ。 そのとき後ろに小さな男の子がやって来たが、人が多くて窓を見ることができずにいた。 俺がどこうとすると、景さんが代わりに移動し、男の子の背中を押してあげた。 「ありがとー!」 男の子は手すりを掴み、持ってたトイカメラで景色を撮る。 「ありがとうございます、景さん」 「俺は後ろでも余裕で見えるからな」 確かに、子どもや女性なら全く問題ないだろう。それでもやっぱり、景さんは優しい。 思えば旅の間も、困ってる人の話を聴きに行くことが多かった。そういうところも密かに尊敬している。 「飛行機があることが既に凄いけど。まさかこんな高い場所に人間が到達するなんてな」 「ですね。いつか天に届いちゃうかもしれませんね」 笑って言うと、景さんは静かに頷いた。 「もう何百年かしたら……それに近い位置まで行けるのかもな」 彼の言葉を聞いて、胸が熱くなった。 俺達はいつも戸惑っている。人の進化と、技術の進歩を。 「もしまた来世があるなら、一緒に行きましょうね」 「二度あることは三度ある。かもしれないしな」 顔を見合わせ、二人で笑う。 そうだ。 俺は、こういう他愛ないことで彼と笑いたかったんだ。 主様。俺はやっと、この時代に生まれて良かったと思えてます。 その後はプラン通りに水族館へ行き、スタッフさんにお願いして景さんと写真を撮った。 「えへへ。やった~」 嬉し過ぎて記念写真を買ってしまった。意外にも、景さんも同じものを買っていた。 「これで、今日のことは絶対忘れません」 「……そうだな」 彼は大事にポーチに仕舞い、微笑む。 「忘れられないよ」 「……景さん」 彼の笑顔はどこか哀愁を帯びていて、綺麗だけど胸がぎゅっとなる。 また、心から笑った顔を見たい。 彼を笑わせるのは、俺の使命でもある。 「景さん、お腹空いてきました? そろそろ時間なので、俺が予約したお店で……ディナーにしましょ!」 「お前がディナーって言うと最高に違和感あるな」 「なっ! お、俺だって一応立派な大人ですよ!」 「わかったわかった。店選んでくれてありがとう」 彼はくく、と笑い、先を歩いた。 く……やっぱ子ども扱いされてる。今夜は大人らしく振舞おうと思ったのに。 いや待て、本番はこれからだ。この後の食事で決めてみせる。 都築は咳払いし、スマホのナビを頼りに目的のビルへ向かった。しかし六つあるエレベーターの前で立ち尽くす。 「二十四階に止まるエレベーターはどれですか?」 「これだな」 景さんのおかげで無事にレストランに入店した。 窓際席をしっかり押さえ、夜景を楽しみながら、早速白ワインで乾杯する。 「随分背伸びしたな」 「うっ。……そんなことありません。この店有名ですし」 目が泳ぎそうになったが、ワインを楽しんでるふりをして誤魔化した。 今夜は俺が持つことになってる。実際一ヶ月分の食費になるけど、今まで彼に出してもらった分を思えば安いものだ。 「景さん、今日は本当にありがとうございました。すごく楽しかったです」 「こちらこそ。最後にこんなサプライズを用意してくれてるとは思わなかったよ」 さっきの仕返しではないけど、景さんの口からサプライズなんてワードが出るとは。 若干面食らいながら、鯛のポワレを慎重に切る。 ……もしかすると、もう酔ってるのかもしれない。彼はお酒が入るとよりフランクになるから。 「それでですね。単刀直入に言ってもいいですか?」 「夜まで過ごして単刀直入ってのも妙だが……」 景さんの鋭いツッコミは一旦スルーさせていただき、ナイフとフォークを置く。 周囲にお客さんがいないことを確認し、息を吸った。 「俺は景さんが好きです」

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