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第34話
様子を窺っていると、世喜は困ったように額を押さえた。
「直球で話すと警戒されちゃうよ、流希」
「いーや。遠慮して上手くいったことないし、ストレートに話した方が絶対良い」
流希という青年は、袖を引く世喜に強い調子で返している。
観光で来たとは思えない空気。気になるけど、こういう時はやり過ごすのが吉だ。
「景さん。よく分からないけど、さりげなく戻りましょうか」
声を潜めて振り返る。ところが、彼は依然として二人を睥睨していた。
( どうしたんだろう? )
尋ねようとしたものの、世喜さんは口端を上げ、景さんに握手を求めた。
「私達もこの一帯の聖地に興味があって来たんです。良ければ、少しお話できませんか?」
「お話することはありません。それより、もう片方の手を出してもらえます?」
世喜さんは姿を見せてからずっと、左手をズボンのポケットに入れていた。
それの何が問題なのか分からなかったが、景さんの次のひと言で理解できた。
「ポケットに入れてる、ボイスレコーダーかなにか……それを止めてください」
「おっと。……そうですよね。貴方なら、最初から警戒されるはずだ」
彼の言い方はなにか含みがあるように思えた。
ますます気になるが、降参したようにポケットから小さな端末を取り出し、俺達の前に翳して見せる。
それは景さんが言った通り、録音系の機械だった。
不安や怒りより、混乱が先行する。驚いて二の句が継げずにいると、端末を差し出された。
「非礼を働き申し訳ありません。こちらはお渡しします。他には持ってませんが、ご心配なら私と、流希の持ち物も全てお見せします」
「結構です。さっきの会話だけ消していただければ」
俺の代わりに、景さんが答える。ボイスレコーダーは受け取らずに、世喜さんが全てのデータを消すところを確認した。他には持ってないという言葉を信じて、無理やり気持ちを落ち着ける。
「ただの雑談だ。録音されて困るわけじゃありませんが、盗聴されたのは良い気分じゃない。目的は何ですか?」
さすがに景さんは臆さない。無表情で声のトーンも一定だが、わかる人にはわかるだろう。確実に気分を害したと。
でも元はと言えば、俺が前世の話をしたせいだ。申し訳なくていたたまれない。
しかし下手に喋ったら状況を悪化させそうな気がして、口を噤んで見守った。世喜さんは再び頭を下げ、静かに謝罪する。
「言質をとろうとしたのは事実です。ただ、悪用する気は一切ありませんでした。信じてほしいとお願いするのも烏滸がましいですが……」
すると、それまで黙っていた流希さんがこちらに振り向いた。
「そうそう、脅す為じゃないよ。逃げないでほしかっただけ!」
それ、ほとんど脅しと一緒では……!
内心ツッコんでいると、突然彼に右手を握られた。振り払えないぎりぎりの力で押さえられた為、焦りが募る。
「なっ、何ですか?」
「そんな警戒しないで。俺達友達じゃん?」
「会って十分も経ってませんて」
「そっか。じゃあ友達になろう。俺は流希 。彼は世喜 さん。全国のパワースポットを巡ってるんだ。よろしく!」
流希は簡単な自己紹介を始めた。話を聞いていくうちに、彼らがそっちの界隈で有名人だということが分かった。
とは言え、気を許せるか、と訊かれれば答えはノーだ。かつてないほど脳が細胞全体に危険信号を送っている。
しかし流希の勢いは止まらない。
「名前だけでも教えてよ。でないと姫って呼ぶよ?」
可愛いから、と補足される。
最高に遺憾の為、即座に返した。
「都築です。男です」
「都築ちゃんかぁ。そっちのインテリそうなお兄さんは?」
「ちゃんて……こちらは景さん」
これで満足してくれたら嬉しかったのだが。流希は目を輝かせ、質問攻めにしてきた。
「二人はどういう関係? ここには何しに来たの?」
解放されるどころか、返答する暇さえ与えられない。
もう強引に振りほどこうかと思ったが、流希は自然に屈み、都築に耳打ちした。
「さっき、前世の話をしてたよね。君達って誰かの生まれ変わり?」
「……っ!」
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