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第35話

録音の件といい、彼らの狙いはこれ一択らしい。 俺と景さんを、好奇心の対象として捕捉している。 しかし、冷やかしてる様子でもない。こちらの出方を窺いながら、真剣な面持ちで話を続ける。 「俺、結構耳良いんだ。もし本当に前世があるなら、詳しく聴かせてほしい」 「……なにかの聞き間違いだと思います。さっきは、その……全盛期、って言ってたんです」 「じゃあ主様って言ってたのは何? キャラづくりとか、もしくはなにかのプレイ?」 「ちっがう!」 あまりに失礼、かつ卑猥な発言に、大声で否定する。しかし直後に凄まじい殺気を感じて喉が鳴った。 流希さんも同じものを感じたらしく、小声でヒッと飛び上がる。 無表情なのに、何でこんなオーラを出せるんだろう。 気付けば景さんは人ひとり殺せそうな目つきで、俺と流希さんを睨んでいた。 「拝所(ここ)で騒ぐな」 尋常じゃない圧を感じ、流希と一緒に後ずさる。蛇に睨まれた蛙のように縮こまり、互いに身を寄せた。 「「申し訳ございません……」」 二人で謝罪すると、世喜さんも深々とお辞儀した。 とにかくこの場を荒らさないよう、四人で駐車場へ戻った。 借りてきた猫のように大人しかった流希も元気を取り戻し、自身のポートフォリオらしきサイトを見せてくる。 「俺と世喜さんはパワースポットや心霊スポット、怪奇現象が起きる場所をメインに回ってるんだ。胡散臭く思うだろうど、分かりやすく言うならオカルト研究家」 「……盗聴してたのもその為ですか?」 「うん。前世とか聞いたら、話を聞かないわけにいかないからね。でもそれで脅したり、了承なく外に発信したりは死んでもしない」 流希はスマホを仕舞うと、真剣な表情で頭を下げた。 「ごめんね、都築ちゃん」 「……まずちゃん付けをやめてもらえませんか」 容姿を褒められたことはあるが、女性扱いされたことはないのでゾッとする。 とは言え、やはり軽率に前世の話を口にした自分が悪い。これは身から出た錆だ。 景さんは少し離れた位置で、誰かに電話している。もう終わりそうだけど、現状ひとりで彼らに対応するのは心細い。 と思ってると、それまで傍観していた世喜さんが手を叩いた。 「もしかして、君達は前世の主を捜してるのかい?」 流希の隣に並び、彼は興味深そうに微笑む。 「前世の記憶があるという人ならこれまでも何人か会ったことがあるよ。でも神様を捜してる人達は初めて見た。……前世は神様に仕えていたのかな?」 おお。 凄まじい想像力だ。実際大正解だけど……あんなちょっとの会話を聞いただけで、よくそこまで想像を巡らせるなと感心した。 これまでの人生にそんな人いなかったから、少しばかり感動してしまっている。でも、どうしても解せない。 「前世は非科学的で、神様は非現実的です。不可視の存在を、どうしてそこまで信じるんですか?」 否。……信じられるのか。 自分や景さんのように体験した人間ならともかく、そうでない彼らが神の存在を信じるのは何故。 「“不思議なこと”は、本気で信じないと始まらないからね」 彼が出した答えは、単純明快。しかし観念を叩き割るには充分過ぎるものだった。 流希も「そーそー」と同意し、笑って頷く。 「幽霊も同じだろ? 信じてる人間にだけ、姿が見える。信じてない人間は曇ったフィルターをかけてるから自動で弾いちまうんだ。霊感なんかじゃない、認識の問題だよ」 だから、まずは存在するていで調査する。彼はそう言って距離を詰めた。 「話は戻るけど、前世の記憶がある人ってマジで貴重なんだ。真剣に取材させてほしい。もちろん、その分の報酬は払うから!」 縋るように両手を掴まれる。ものすごい熱量でお願いされ、ますます返答に困ったけど。 「旅行中なんだ」 いつの間にか戻ってきた景さんが、流希さんの手を振り解いた。ぽかんとしてる彼のフードをつまみ、世喜さんに預ける形で移動させる。 「一秒だって惜しい。……行くぞ、都築」 「あっはい!」 嬉しくもあるけど……やっぱり、この人達が特別なんだ。 宗教的に輪廻転生を信じてる人達もいるけど、多くは笑い飛ばされる。仮に信じてもらったとしても、今度は根掘り葉掘り尋問が始まる。生まれ変わりを誰かに話して良かった、と思ったことは一度もない。 でもそれでいい。来世があると思い込んでしまう方が危険なんだ。 「それじゃ、すみません。失礼します」 去り際、逡巡してからお辞儀した。景さんをお追うとしたのだが、流希はちょいちょいと手招きしてきた。 「神様を捜してるなら、俺達が今まで集めた記録を送ったげるよ。IDか使い捨てのアドレス教えたって」 「な……何でそこまでしてくれるんですか?」 「だって、詮索して嫌な思いさせたし。君らの言ってることが本当なら、俺達もその神様見つけてあげてほしいから」

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