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第36話
流希はスマホを差し出し、こちらを見つめた。
「さっきは舞い上がって色々訊いちゃったけど……本当にごめん。普通、他人には言いたくないことだよな」
「……!」
猪突猛進な感じはあるけど、根は真面目なのかもしれない。
世喜さんも、全国の土地神を詳しく記してあるデータを送ってくれた。
「……普通気味悪がられるから、理解されることに慣れてないんです」
俺も景さんも既に負った傷口を塞ぐのに忙しくて、治そうとしてくれる人達に向き合うことが難しくなっていた。
それも、少しずつ変えていかないとだ。気付かせてくれたことに感謝しながら、瞼を下げた。
「ありがとうございます」
まさか、こんな手助けをしてもらえるとは思わなかった。スマホを大事に握り締めて、彼らに頭を下げる。
「もう少ししたら雨が降ると思うので、お気をつけて」
「おけおけ。……ね、都築って、あの景ってひとと付き合ってんの?」
なんっっ。
流希さんは俺にだけ聞こえる声で聞いてきたが、衝撃過ぎてまたフリーズしてしまった。
このところ、現在進行形の秘密を的確に撃ち抜いてくる人が多すぎると思う。真っ白になりながら見返すと、流希は可笑しそうに腹を押さえた。
「あはは! 図星だ」
「いっ……待って、それは違」
「しー。俺と世喜さんも、付き合ってるよ。だから別に隠さなくていいって」
あまりにサラッと言うから、とても信じられない。けど流希は声を潜めたまま、不思議そうにしてる世喜さんを見つめた。
「俺らの弱みも握っておけば安心だろ? 大丈夫、世喜さんには君らが付き合ってること隠しておくから」
「本当かなぁ……」
「ああ、命懸ける! だから、景さんに俺と世喜さんが恋人同士だってこと言っときなよ。後々なんかに使えるかもしれないし」
使えるって、それこそ脅しに?
敵に塩を送る形にしていいんだろうか。はちゃめちゃな彼にどう返したらいいか困っていると、世喜さんは車のキーをちらつかせ、流希さんに声を掛けた。
「そろそろ行くよ」
「おっけー! 都築、じゃあな」
流希は手を振って車に乗り込む。運転席にいた世喜さんは窓を開けて微笑んだ。
「またね、都築くん」
嵐のようだ。
彼らが走り去るのを見届け、景さんが乗る車に小走りで戻った。
「すみません、景さん。お待たせしました」
「こら。長話してたけど、妙なこと吹き込まれてないだろうな」
「妙なこと……? あ、流希さんと世喜さんは付き合ってるらしいです」
景さんはハンドルにぶつかりそうなほど、ガクッと前に傾いた。
「どういう流れでその話になったんだ」
「流希さんが、盗聴したお詫びに自分達の秘密を教える、って。でも俺も誰もいないと思って、前世の話をしちゃったから……すみませんでした、景さん」
思えば、これまでも危ない場面はたくさんあった。しかしあんな風に目的を持って接近されたことがない為、完全に油断していた。
申し訳なくて頭を下げると、頬をつつかれた。
「大丈夫。録音されようが素性を調べられようが、いくらでも誤魔化せる。生まれ変わりだと証明する方が百億倍難しいだろ?」
「景さん……」
「むしろ証明したら天才だ。賞金をやってもいい」
「あははっ」
暗く沈んだ心が一瞬で浮上した。
本当に、彼はすごい。俺にとってはヒーローと同じだ。
「ありがとうございます、景さん」
目元を軽く擦り、慌ててスマホを取りだす。
彼らが神様に関するデータをくれたことを伝えると、パソコンに送るように言われた。
「本当に無名の、地元の人間も知らなそうな神々まで細かく載ってる」
自称研究家は伊達じゃないな、と景さんは微笑を浮かべた。
「ええ、すごいですよね。何年かかっても集められない量……本当に有り難いです」
嬉しさのあまり隣に身を乗り出すと、彼はぴたりと指を止めた。
「景さん? どうしました?」
「これは東京に帰ってから確認する。今はここでしかできないことを優先したい」
「うーん、確かに。二泊三日ですもんね」
欲を言えばもう少し滞在したいところだ。苦笑しながら頷くと、彼は留守番を言い渡された子どものようにシートにもたれた。
「本当に時間が惜しい。今だってお預け食らってるようなもんだからな」
「お預け?」
「やることやったらのんびりするぞ」
優しく頭を撫でられる。それだけで胸の内から喜びが湧き上がった。
「はい!」
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