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第38話
見たかった資料館も寄ることができ、無事に今日泊まるホテルへ到着した。
主様の手掛かりはないけど、景さんの言う通り消去法で動くのもアリだと思った。ホテル近くの居酒屋に入り、運ばれたビールで乾杯する。
「景さん、お疲れ様です。乾杯しましょっ」
「ああ。……乾杯」
久しぶりにジョッキをあおり、沖縄料理を堪能する。店内は賑わっていて、ようやく旅行に来た、という気持ちが湧き上がってきた。
「あーっビールうまっ!! 暑くなくても、労働してなくてもお酒って美味しいですよね!!」
五杯目を干し、新たにオーダーしようとした。すると景さんの顔は何故か青くなり、俺からタブレットを奪った。
「飲み過ぎだ。次は水にしろ」
「ええ、大丈夫ですよ。俺こう見えてもお酒強いんです」
運転しないといけないから、そういえば彼の前で思いきり飲んだことがなかった。彼が不安がるのも無理はないか。
それに普段は日本酒メインだったから、実際全然飲み足りない。
「せっかくだし泡盛飲もうかな。景さんも飲みませんっ? ホテルまでは歩いて帰れるし、俺が支えるから大丈夫ですよ!」
「遠慮しておく」
「よーし、ハブ酒もいっちゃお!」
楽しくなってさらに追加すると、彼は呆れながらも笑って頬杖をついた。
「相変わらず酒豪だな」
「え?前はお酒なんて買えませんでしたよ」
「お前は新しい神酒を捧げるとき、古いものは全部飲んで片付けてたぞ。腹を壊さないかいつもヒヤヒヤした」
「そうでしたっけ。全然憶えてないや」
景さんはビールを飲み、目を細める。
「そういうところも全然変わらないな。可愛いやつ」
「かわっ……もう、からかわないでください」
「からかってなんかない。事実だ」
真顔で言い切られてしまい、頬を掻く。褒めてくれてるんだろうけど、男としては可愛いと言われると恥ずかしい。
羞恥心を振り落とすように、無理やり話をスライドした。
「景さんも、根本的なところはあまり変わってませんよ」
塩を振った天ぷらを頬張り、咀嚼する。ゴクンと飲み込んだ後、笑いかけた。
「落ち着いてるけど、実は誰よりも優しくて、温かい」
景さんは瞼を伏せ、手を拭いた。
「お前にだけだ」
「あははっ」
そんなことないと知っている。
だから、なんでもないように答える彼を見て吹き出してしまった。
「誰が何と思おうと、俺は知ってます。景さんは、俺の自慢の恋人です」
アルコールのせいか、そういう台詞はすらすら出てくる。景さんの頬を赤く染めたところで、お店を出た。
「はあ~! 旅って最高~!」
「冷静だと思ったけど、やっぱだいぶ酔ってるな」
景さんは隣に並びながら苦笑する。
今夜泊まるのはホテルと言ってもリゾート用のコテージがいくつも点在しており、フロントもレストランも、それぞれ建物が分離している。バスルームは部屋にもあるが、せっかくなので宿泊客が入れる入浴施設に行くことにした。
ところが、ここで予想外の人物に遭遇する。
「あれー? 王子と姫じゃん!」
「えっ、流希さん?」
脱衣所に入ると、なんと下をタオルで巻いた流希さんがやってきた。ものすごい偶然で、流希さんと世喜さんは俺達と同じホテルに泊まっていた。ただ世喜さんの姿は見えない。
「ここまでくるとやっぱ運命かもな。一緒に入ろうぜ!」
「運命……まぁ、確かに……?」
流希さんの言葉に頷きつつ、大浴場に入って身体を洗う。俺と流希さんは一番大きな泡風呂に入り、景さんはサウナに入っていった。
「なあ、あれからどこか寄った? 俺と世喜さんはパイナップル食べまくってたよ」
「あはは。流希さん達も、調査兼旅行なんですね。俺と景さんはもうひとつ聖地へ寄りましたけど、成果は特に……」
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