38 / 62

第38話

見たかった資料館も寄ることができ、無事に今日泊まるホテルへ到着した。 主様の手掛かりはないけど、景さんの言う通り消去法で動くのもアリだと思った。ホテル近くの居酒屋に入り、運ばれたビールで乾杯する。 「景さん、お疲れ様です。乾杯しましょっ」 「ああ。……乾杯」 久しぶりにジョッキをあおり、沖縄料理を堪能する。店内は賑わっていて、ようやく旅行に来た、という気持ちが湧き上がってきた。 「あーっビールうまっ!! 暑くなくても、労働してなくてもお酒って美味しいですよね!!」 五杯目を干し、新たにオーダーしようとした。すると景さんの顔は何故か青くなり、俺からタブレットを奪った。 「飲み過ぎだ。次は水にしろ」 「ええ、大丈夫ですよ。俺こう見えてもお酒強いんです」 運転しないといけないから、そういえば彼の前で思いきり飲んだことがなかった。彼が不安がるのも無理はないか。 それに普段は日本酒メインだったから、実際全然飲み足りない。 「せっかくだし泡盛飲もうかな。景さんも飲みませんっ? ホテルまでは歩いて帰れるし、俺が支えるから大丈夫ですよ!」 「遠慮しておく」 「よーし、ハブ酒もいっちゃお!」 楽しくなってさらに追加すると、彼は呆れながらも笑って頬杖をついた。 「相変わらず酒豪だな」 「え?前はお酒なんて買えませんでしたよ」 「お前は新しい神酒を捧げるとき、古いものは全部飲んで片付けてたぞ。腹を壊さないかいつもヒヤヒヤした」 「そうでしたっけ。全然憶えてないや」 景さんはビールを飲み、目を細める。 「そういうところも全然変わらないな。可愛いやつ」 「かわっ……もう、からかわないでください」 「からかってなんかない。事実だ」 真顔で言い切られてしまい、頬を掻く。褒めてくれてるんだろうけど、男としては可愛いと言われると恥ずかしい。 羞恥心を振り落とすように、無理やり話をスライドした。 「景さんも、根本的なところはあまり変わってませんよ」 塩を振った天ぷらを頬張り、咀嚼する。ゴクンと飲み込んだ後、笑いかけた。 「落ち着いてるけど、実は誰よりも優しくて、温かい」 景さんは瞼を伏せ、手を拭いた。 「お前にだけだ」 「あははっ」 そんなことないと知っている。 だから、なんでもないように答える彼を見て吹き出してしまった。 「誰が何と思おうと、俺は知ってます。景さんは、俺の自慢の恋人です」 アルコールのせいか、そういう台詞はすらすら出てくる。景さんの頬を赤く染めたところで、お店を出た。 「はあ~! 旅って最高~!」 「冷静だと思ったけど、やっぱだいぶ酔ってるな」 景さんは隣に並びながら苦笑する。 今夜泊まるのはホテルと言ってもリゾート用のコテージがいくつも点在しており、フロントもレストランも、それぞれ建物が分離している。バスルームは部屋にもあるが、せっかくなので宿泊客が入れる入浴施設に行くことにした。 ところが、ここで予想外の人物に遭遇する。 「あれー? 王子と姫じゃん!」 「えっ、流希さん?」 脱衣所に入ると、なんと下をタオルで巻いた流希さんがやってきた。ものすごい偶然で、流希さんと世喜さんは俺達と同じホテルに泊まっていた。ただ世喜さんの姿は見えない。 「ここまでくるとやっぱ運命かもな。一緒に入ろうぜ!」 「運命……まぁ、確かに……?」 流希さんの言葉に頷きつつ、大浴場に入って身体を洗う。俺と流希さんは一番大きな泡風呂に入り、景さんはサウナに入っていった。 「なあ、あれからどこか寄った? 俺と世喜さんはパイナップル食べまくってたよ」 「あはは。流希さん達も、調査兼旅行なんですね。俺と景さんはもうひとつ聖地へ寄りましたけど、成果は特に……」

ともだちにシェアしよう!