39 / 62

第39話

大浴場には、俺と流希さんしかいない。だから声を潜めることもなく、自然体で話せた。流希さんは依然として、俺達の前世のことを信じ切っていた。 「勘違いとかじゃないだろ、絶対。その記憶は大事にしなよ」 「流希さん……」 「俺が都築ちゃんだったら、やっぱ同じ行動をとったと思うから」 その言葉は、とても自然に心の中に沁みていった。 共感してもらえたことが初めてだから戸惑ったけど、嬉しくて……気付けば、目頭が熱くなった。 俺ってやっぱり涙腺弱いのかもしれない。流希さんも俺の顔を見て、慌て出した。 「ちょ、泣くなよ。そんなに周りから否定されてきたわけ?」 「すいません。まぁ、それなりに」 「はー、頭固い奴が集まってたんだろ」 流希はやれやれと肩を竦め、都築の目元を指で撫でた。 「俺がいたら、そいつらのこと殴ってやれたのにな」 「……流希さんも、辛いことは多いですか?」 「辛いっていうか、活動してる上でムカつくことはめちゃくちゃあるよ。理解されないし、熱心なアンチも多いし……けどそれだけ注目されてるってことだからな。何千って人間が見てたら批判ゼロなんて不可能じゃん。どうぞご自由に、って感じ」 ストレスのはけ口にされるのは嫌だけどなー、と彼は笑った。 「流希さんは強いですね」 やっぱり、皆それぞれ抱えてるんだ。口や態度に出さなくても、心を強く持って日々を生きてる。 流希さんの屈託のない笑顔に励まされ、俺も景さんと出逢ってからのことを話した。 「へー、三ヶ月でそんだけ回ったのはすごいな」 「はい。でも、関西は景さんと逢う前に自分で調べ回ってました。有名どころを外してたりもするし、結構いい加減です」 はにかむと、彼も目を丸くして笑った。 「それに、主様の気を全く感じられない理由が……俺達にもあるような気がして、不安です」 「都築ちゃんと景さんに?」 「ええ。でもそれも分からないから八方塞がりです」 弱音吐かずに頑張らないと、と付け足すと、流希さんは興味深そうに頬杖をついた。 「何か都築ちゃんて、人生二回目言われると納得だわ。第一印象と違うかも」 「え、そうですか?」 「うん。つうか一個しか歳変わんないみたいだし、タメ語でいいよ」

ともだちにシェアしよう!