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第39話
大浴場には、俺と流希さんしかいない。だから声を潜めることもなく、自然体で話せた。流希さんは依然として、俺達の前世のことを信じ切っていた。
「勘違いとかじゃないだろ、絶対。その記憶は大事にしなよ」
「流希さん……」
「俺が都築ちゃんだったら、やっぱ同じ行動をとったと思うから」
その言葉は、とても自然に心の中に沁みていった。
共感してもらえたことが初めてだから戸惑ったけど、嬉しくて……気付けば、目頭が熱くなった。
俺ってやっぱり涙腺弱いのかもしれない。流希さんも俺の顔を見て、慌て出した。
「ちょ、泣くなよ。そんなに周りから否定されてきたわけ?」
「すいません。まぁ、それなりに」
「はー、頭固い奴が集まってたんだろ」
流希はやれやれと肩を竦め、都築の目元を指で撫でた。
「俺がいたら、そいつらのこと殴ってやれたのにな」
「……流希さんも、辛いことは多いですか?」
「辛いっていうか、活動してる上でムカつくことはめちゃくちゃあるよ。理解されないし、熱心なアンチも多いし……けどそれだけ注目されてるってことだからな。何千って人間が見てたら批判ゼロなんて不可能じゃん。どうぞご自由に、って感じ」
ストレスのはけ口にされるのは嫌だけどなー、と彼は笑った。
「流希さんは強いですね」
やっぱり、皆それぞれ抱えてるんだ。口や態度に出さなくても、心を強く持って日々を生きてる。
流希さんの屈託のない笑顔に励まされ、俺も景さんと出逢ってからのことを話した。
「へー、三ヶ月でそんだけ回ったのはすごいな」
「はい。でも、関西は景さんと逢う前に自分で調べ回ってました。有名どころを外してたりもするし、結構いい加減です」
はにかむと、彼も目を丸くして笑った。
「それに、主様の気を全く感じられない理由が……俺達にもあるような気がして、不安です」
「都築ちゃんと景さんに?」
「ええ。でもそれも分からないから八方塞がりです」
弱音吐かずに頑張らないと、と付け足すと、流希さんは興味深そうに頬杖をついた。
「何か都築ちゃんて、人生二回目言われると納得だわ。第一印象と違うかも」
「え、そうですか?」
「うん。つうか一個しか歳変わんないみたいだし、タメ語でいいよ」
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